✤僕の不安✤
人間は、不思議だ。
こんな風に、気さくに話し掛けてくる村人を見ていると、盛誉が地頭の息子……だなんて、とても思えない。
盛誉がそのまま地頭の息子として育てられていたとしたら、今の関係はどうなってただろう?
今と変わらずに、こうやって愉しそうに話をしていただろうか?
村人たちの目はみんなあたたかで、盛誉が本当に好きなんだなって思えた。
……ふふ。おかしな話だよね?
もしも盛誉が長男に生まれていたのなら、今頃は、農民たちの税を取り立てる側なのにね。
だって地頭なんだもん。
農民から税を取り立てている、役人の親分なんだもん。
だけど二番目に生まれたってだけでその身分はなくなって、今こうして村人たちと気軽に話をすることが出来ている。
立場が違えば、人間はゴロリとその性格を変える。
身分が高ければ偉い人。
身分が低ければ、いつも上を気にして生きていく。
……同じ人間なのに、おかしいよね?
農民たちだって同じだ。
ひとたび戦に出れば、怖い顔で人を斬りつけるその手も、時と場合によって優しい手となる。
命を奪ったその手は一変して、畑で作物を育て、そして僕たちに柿や魚を分けてくれるんだ。
それが何だか、僕には不思議だった。
僕たち猫は、そんな事はしない。
そもそも【立場】ってのがない。僕は僕だし、それ以上でも以下でもない。
武器を持つことも出来ないし、ましてや何年も何年も自分じゃない誰か……領主の為に戦をする……なんてこともしない。
猫同士で諍いが起こったとしても、それはその日限りのもので、ズルズル何年も争うなんてことはしない。
ただただ、自分の事だけを考えて生きている。
そりゃね、確かに人間たちだってそうだよ? 自分の為に戦ってる。
……だけど、何かが違う。
僕たち猫とは、何か……。
『にゃう……』
「ん? 疲れたのかい?」
僕がずっと盛誉を見上げていたら、盛誉はそう言って僕を覗き込んだ。
道草して、ウロウロしていたせいで、疲れさせたのか? とでも思ったんだろう。少し焦った顔が面白い。
農民たちも『そうかも知れん。そんならな……』……と言って消えてった。
まだまだ田んぼは、稲刈りで大忙しだ。話してる暇なんて、本当はない。
僕は困った顔の盛誉を見て、吹き出しそうになる。
少なくとも盛誉は、僕にとって優しい人だ。……でも、誰かにとっては、嫌な奴かもしれない……。
そんな風に考えると、少し不安になる。
ううん。そんな事ない。盛誉は誰に対しても、優しいから。
『にゃう……』
僕は盛誉にもたれかかる。お香のいい匂いがした。
盛誉はいよいよもって焦りだし、慌てて歩を進める。
ふふ。変な盛誉。僕が疲れてるなんて、あるはずない。
だって僕はずっと、盛誉に抱っこされているじゃないか。
疲れているって言うのなら、僕を抱っこしている盛誉こそ、疲れているはずなんだ。
だって、すっごい寄り道もしてるし、僕に色々説明してくれた。村人の相手だって、したんだから。
だけど盛誉は、自分のことよりも僕のことを気にかけてくれる。
それがなんだか、くすぐったい。
「もう少しで着くぞ。
そしたら牛の乳を母さまにもらってあげよう」
『……』
盛誉はそう言って、優しく笑った。
あぁ、なんで盛誉は、僕に優しくしてくれるんだろう?
もしかしたらその優しさは、今だけなのかもしれない。
……もしかしたら この優しさはいつの日にか、消えてなくなるヤツかも知れない。
『……』
僕は知っている。
今の世の中は荒れに荒れていて、人間がゴロゴロ死んでいる。
だから盛誉だって、いつ戦いに巻き込まれて死ぬかも分からない。
今は物珍しくって、僕に優しくしてくれているけれど、でも、自分の生活にいっぱいいっぱいになれば、僕のことなんか忘れてしまうに違いないんだ。
『……』
ううん。そうでなくても、僕が大きくなって大人になれば、可愛さもなくなって、もしかしたら捨てられちゃうかも知れない。
『に"ー!』
僕はそう思うと少し怖くなって、盛誉にしがみついた。
また、ひとりぼっちになるのは嫌だった。せっかく出会えた盛誉と、ずっとずっと一緒に生きていたい。
離れたくない。
絶対に、離れたくない──!!
「ふふ。どうしたの? 人が多くて怖くなった?
大丈夫だよ? 私が傍にいるからね」
『……』
盛誉はいつものように、そう ふわりと笑って、あったかい その大きな手で、僕を包み込んでくれる 。
……大丈夫だって、思いたい。
ずっとずっと一緒に、いられるって。
『みゃあ……』
本当は心配なんて、しなくていいのかも知れない。
盛誉はとても、優しい人だから。
だけど、……だけど──。
僕はこの時、既に嫌な予感がしていて、
不安で不安で、たまらなかったんだ……。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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誤字大魔王ですので誤字報告、
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更新は不定期となっております。
はい。例に漏れず、また分割してます。
本当はこの話、前回のとつながってましたw
それをまた、切ってます。
こうやって、長くなるんですよね( ̄▽ ̄;)へへ