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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第四章 盛誉と玖月善女さま。
10/43

✤僕の不安✤

  人間は、不思議だ。

 

 

 こんな風に、気さくに話し掛けてくる村人を見ていると、盛誉(せいよ)が地頭の息子……だなんて、とても思えない。

 

 盛誉(せいよ)がそのまま地頭の息子として育てられていたとしたら、今の関係はどうなってただろう?

 今と変わらずに、こうやって愉しそうに話をしていただろうか?

 

 村人たちの目はみんなあたたかで、盛誉(せいよ)が本当に好きなんだなって思えた。

 ……ふふ。おかしな話だよね?

 

 もしも盛誉(せいよ)が長男に生まれていたのなら、今頃は、農民たちの税を取り立てる側なのにね。

 

 だって地頭なんだもん。

 農民から税を取り立てている、役人の親分なんだもん。

 

 だけど二番目に生まれたってだけでその身分はなくなって、今こうして村人たちと気軽に話をすることが出来ている。

 

 

 立場が違えば、人間はゴロリとその性格を変える。

 

 身分が高ければ偉い人。

 身分が低ければ、いつも上を気にして生きていく。

 

 

 ……同じ人間なのに、おかしいよね?

 

 

 農民たちだって同じだ。

 ひとたび戦に出れば、怖い顔で人を斬りつけるその手も、時と場合によって優しい手となる。

 

 命を奪ったその手は一変して、畑で作物を育て、そして僕たちに柿や魚を分けてくれるんだ。

 

 それが何だか、僕には不思議だった。

 

 

 

 僕たち猫は、そんな事はしない。

 そもそも【立場】ってのがない。僕は僕だし、それ以上でも以下でもない。

 

 武器を持つことも出来ないし、ましてや何年も何年も自分じゃない誰か……領主の為に戦をする……なんてこともしない。

 

 猫同士で(いさか)いが起こったとしても、それはその日限りのもので、ズルズル何年も争うなんてことはしない。

 ただただ、自分の事だけを考えて生きている。

 

 

 そりゃね、確かに人間たちだってそうだよ? 自分の為に戦ってる。

 

 ……だけど、何かが違う。

 僕たち猫とは、何か……。

 

 

『にゃう……』

 

「ん? 疲れたのかい?」

 

 僕がずっと盛誉(せいよ)を見上げていたら、盛誉(せいよ)はそう言って僕を覗き込んだ。

 

 道草して、ウロウロしていたせいで、疲れさせたのか? とでも思ったんだろう。少し焦った顔が面白い。

 

 農民たちも『そうかも知れん。そんならな……』……と言って消えてった。

 まだまだ田んぼは、稲刈りで大忙しだ。話してる暇なんて、本当はない。

 

 僕は困った顔の盛誉(せいよ)を見て、吹き出しそうになる。

 少なくとも盛誉(せいよ)は、僕にとって優しい人だ。……でも、誰かにとっては、嫌な奴かもしれない……。

 

 

 そんな風に考えると、少し不安になる。

 ううん。そんな事ない。盛誉(せいよ)は誰に対しても、優しいから。

 

『にゃう……』

 僕は盛誉(せいよ)にもたれかかる。お香のいい匂いがした。

 盛誉(せいよ)はいよいよもって焦りだし、慌てて歩を進める。

 

 ふふ。変な盛誉(せいよ)。僕が疲れてるなんて、あるはずない。

 だって僕はずっと、盛誉(せいよ)に抱っこされているじゃないか。

 

 疲れているって言うのなら、僕を抱っこしている盛誉(せいよ)こそ、疲れているはずなんだ。

 だって、すっごい寄り道もしてるし、僕に色々説明してくれた。村人の相手だって、したんだから。

 

 だけど盛誉(せいよ)は、自分のことよりも僕のことを気にかけてくれる。

 それがなんだか、くすぐったい。

 

 

「もう少しで着くぞ。

 そしたら牛の乳を(はは)さまにもらってあげよう」

『……』

 盛誉(せいよ)はそう言って、優しく笑った。

 

 

 

 あぁ、なんで盛誉(せいよ)は、僕に優しくしてくれるんだろう?

 もしかしたらその優しさは、今だけなのかもしれない。

 ……もしかしたら この優しさはいつの日にか、消えてなくなるヤツかも知れない。

 

『……』

 

 

 僕は知っている。

 今の世の中は荒れに荒れていて、人間がゴロゴロ死んでいる。

 

 だから盛誉(せいよ)だって、いつ戦いに巻き込まれて死ぬかも分からない。

 

 今は物珍しくって、僕に優しくしてくれているけれど、でも、自分の生活にいっぱいいっぱいになれば、僕のことなんか忘れてしまうに違いないんだ。

『……』

 

 ううん。そうでなくても、僕が大きくなって大人になれば、可愛さもなくなって、もしかしたら捨てられちゃうかも知れない。

 

『に"ー!』

 僕はそう思うと少し怖くなって、盛誉(せいよ)にしがみついた。

 

 また、ひとりぼっちになるのは嫌だった。せっかく出会えた盛誉(せいよ)と、ずっとずっと一緒に生きていたい。

 離れたくない。

 絶対に、離れたくない──!!

 

 

「ふふ。どうしたの? 人が多くて怖くなった?

 大丈夫だよ? 私が傍にいるからね」

『……』

 

 盛誉(せいよ)はいつものように、そう ふわりと笑って、あったかい その大きな手で、僕を包み込んでくれる 。

 

 ……大丈夫だって、思いたい。

 ずっとずっと一緒に、いられるって。

 

『みゃあ……』

 本当は心配なんて、しなくていいのかも知れない。

 盛誉(せいよ)はとても、優しい人だから。

 

 だけど、……だけど──。

 

 

 僕はこの時、既に嫌な予感がしていて、

 不安で不安で、たまらなかったんだ……。

 

 

 

 

           × × × つづく× × ×

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。



      はい。例に漏れず、また分割してます。

     本当はこの話、前回のとつながってましたw

         それをまた、切ってます。

    こうやって、長くなるんですよね( ̄▽ ̄;)へへ

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