✤秋深まる金桂舞う✤
少しずつ秋が深まる、ある日のこと。
紫子さんは、お菓子作りをしていました。
……紫子さんが、お菓子作り?
何もしない紫子さんが、お菓子なんか作るわけがない! 誰もがそう思うはず。
だって紫子さんって、本当に、何もしないから。誰もが認める、面倒臭がり屋さんですからね。
だからそれはきっと、紫子さんじゃなくって、一緒に住んでいる瑠奈さんじゃないかって思うでしょ?
けれど違います。
ちゃんと紫子さんだって、お菓子が作れるんです……! パチパチパチパチ(拍手)。
紫子さんが、今作っているのは【琥珀糖】。
……琥珀糖、知ってます?
まるで飴玉みたいな名前だけれど、飴玉ではありません。
まさかの寒天で作る、干菓子なのです。
作り方は簡単。
まず寒天を水でふやかして、お鍋に入れて、火にかけて、それから綺麗に溶かします。
寒天のかけらが残っていると、食べた時ザラザラするので、濾して不純物を取り除きます。
その中に、たっぷりの砂糖を煮溶かして、可愛らしい蝶のような小さな小さな金木犀の花のジャムを散らすのです。
より金色に輝くように、黄色の食紅で ほんの少し色付けし、型に流し込んで固めます。
あぁ、そうそう。色付けは、ほんのりつくように。
しっかり混ぜなくて良いのです。
そうした方が、可愛いなって紫子さんは思ってます。
マーブルになるように、あまり混ぜないように、そうやって紫子さんは、毎年秋になると金木犀を散らした、ほんのり色の琥珀糖を作るのです。ほんのり色にしちゃうのは、なにも面倒臭がりだからではありません。
食紅は、驚くほど色がついちゃうので、注意が必要なんです。
これ、ホント。
それからそれから、固めた寒天を宝石のような形に整えて、風通しのいい日陰で乾かします。
すると秋らしく、小さく可愛らしい花の舞う、金木犀の琥珀糖の出来上がり。別名、干錦玉とも言います。
琥珀糖は、なにも金木犀を入れて作るわけではありません。
好きなものを入れてもいいし、入れなくてもいいのです。
だから紫子さんは、いつも金木犀を入れることにしています。だって紫子さんは、金木犀が大好きなのです。
小さな蝶のような、可愛らしいその花弁。
それから鮮やかな黄色は、秋の陽の光に照らされて、まるで金色に輝くお星さまのよう。
甘く柔らかなその香りを嗅ぐと、『あぁ、もう秋なのね……』と何故だか少しホッとする。
なぜだか少し悲しくて、なんだか人恋しくなってしまうのは、小さくて儚い金木犀のせいかしら?
金木犀の花は意外と弱くて、すぐに散ってしまう。散ってしまうと、いよいよ本格的な冬がくるのです。
冷たいアイスコーヒーから、温かい紅茶や珈琲が飲みたくなって、そろそろ衣替えでもしようかな……? って思ってしまうような昼下がり。
優しく沈んでいく お日さまを見ていると、少し寂しくて、でもとても心が落ち着いていくのを感じるのです。
そんな日には、この琥珀糖が突然作りたくなる。
外はサックリ、中はぷるりん。
不思議な食感の、可愛い和菓子。
出来上がってスグのものを、つまんで食べるのもいいし、サイダー水に浸して飲み物にするのも面白い。
もちろん、しっかり乾かしてから、中の小さな黄色い花を、日に透かして眺めるのも、紫子さんは大好きです。
キラキラ光る琥珀糖は、紫子さんには少し甘すぎて、あまり食べられないのだけれど、そうやって金木犀の琥珀糖を眺めながら、少しずつ齧って食べるのが、紫子さんの 【秋】なんですって。
だから今年も、金木犀の琥珀糖。
大事に大事に作りました。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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あ、そうそう『金桂』はキンモクセイの事ではありません。
キンモクセイは『丹桂』です。
『金桂』もしくは『銀桂』はウスギモクセイです。
ギンモクセイは『桂花』のようですよ。