99話
『イグニッションアロー』による効果なのか、それともホブゴブリンを倒した際にでた超過ダメージによる衝撃波の影響なのか、ともかくノスタルジアの木は完全に成長を止め、俺たちの道を阻むことはなくなっ――
「言ったよな。四一階層から五〇階層のホブゴブリンを経験値にしようが兵士として扱おうが構わないが……死んだ人間の魔力と血は俺が食らうってなあ。……にしてもこの『ノスタルジアの木』ってのは半生が最高だ。爆発的に増えた魔力と新鮮な人間の血、それにパリパリとした木の食感……。献上された数匹以降ずっと食えなくてもどかしかったし、まさか騙されたか?とも思ったが……。なるほど、本命は追い込まれた仲間の方ってわけだ」
成長を止めたノスタルジアの木の影から現れた一匹のモンスター。
前回戦った統率モンスターと同様、流暢に日本語を扱っているところから鑑みるにこいつも統率モンスターで間違いないだろう。
姿は細身で、上半身だけ見れば人と間違う人もいそうなほどの既視感を覚える。
だが、下半身は艶やかな黒い鱗が印象的な蛇そのもの。
ダンジョンでの発見報告はされたことがない種族だが、おそらくナーガ。
男勝りな話し方だが、よく見れば胸に若干の膨らみが見える。
ナーガは女性の上半身を持つ。本などで見聞きする内容と見事一致だ。
「あっ……。その、これはだな……。お、お前らも食べるか? 特別だぞ」
「食べるわけないでしょ! ふざけた奴だけど……こいつも統率モンスター。ホブゴブリンの耐性効果、それにノスタルジアの木を食べられるようだから、あの装備ももしかしたらこいつが……」
「ホブゴブリンの分は俺が作ったが……。なぁ、俺食べるのは好きだが殺すのは嫌いなんだ。だからそもそも戦うことも苦手なわけで……。俺はお前たちを攻撃しない、だからお前らも俺を攻撃しないでくれ」
モンスターが交渉か。
勿論そんな信用できないものに頷く気はないが……。
「交渉したいならまずは名乗ったらどうなんだ?みてくれは人らしくあるが、このままだと礼儀は人以下だぞ」
「俺はデモンナーガ『暴食』。四一階層から 五〇階層のモンスターを統率している。お察しの通りバフ効果は俺のスキル。どうだ?これで俺のことを信頼――」
「まだだ。お前はそこのノスタルジアの木になった人間の仲間とも契約しているのだろう?そんな奴をそう簡単に信頼できはしない。しかもお前は人間を喰うとか言っているモンスターだぞ」
「……。こいつらの強さは本物。あいつらより強いのは明白。となれば、ノスタルジアの木になることのできるあいつらの方が旨い。乗っかるならあいつらよりもこいつらか?……」
俺が出方を窺うために冷たく言い放つと、ナーガは顎に手を添えて考える仕草を見せる。
おそらく佐藤さんがしたであろう契約というのは、ホブゴブリンに対する常時バフ効果付与、さらにはノスタルジアの木の装備製造方法の伝授。これと引き換えに殺した人間を喰わせるとかそんなものだろう。
契約しているということ自体は嘘ではないだろうし、これを飲むということは本当に戦いが苦手なのだろう。
「仕方ない……。信頼を得るためなら、旨いもののためなら……。だが、あいつらにバレて強襲されるのは避けたいから……。なあ、各階層に張り巡らせた属性耐性バフなんだが、お前らはどの属性が効くと便利なんだ? それと、お前らの目的はおそらくだがあいつらの巣だよな? その入り口、俺が教えてやるから、殺った人間は俺に食わせて欲しい」
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