98話
「まさか僕たちのホブゴブリンと『装備』をこんなにしちゃうなんて……。貰った情報のおかげで対策は完璧だと思っていたんだけど……。厄介なスキルを覚えたか隠していた、或いはその厄介なスキルを持った仲間でも連れてきたのかな? ……。大丈夫だとは思うけど念のために調査しておくか。……。お前、僕のために盾役したいよな?」
「が、ぁ」
先に見える探索者は口元に手を当て何かを考えるような仕草をすると、ホブゴブリンの身体で自分の身体を隠しながらこちらへ向かってゆっくりと歩き始めた。
俺たちの、というより俺の攻撃をかなり警戒しているようだ。
そうだろうなとは思ったが、これでこの探索者が俺に攻撃を仕掛けられてもおかしくない存在、つまりは佐藤さんの手下にあたる人間であると確定したわけだ。
「手下、か。それは佐藤さんが既に二つのダンジョンを跨げる階段を封鎖できるということ。ただ、ここにまだ手下が残っていることからその階段はまだ封鎖されていない。そうする意味は……。考えられるのはホブゴブリンを使っての実験、経験値稼ぎ、こっちのダンジョンでしか手に入らない素材の調達、くらいか?」
目的は分からないが、とにかくまだ50階層にあるだろうその階段が佐藤さんたちの手によって封鎖されていないという情報を得られたこと、それにそういった情報を持った存在が自ら俺たちの下まで近寄ってくれているのはありがたい。
「まずは盾になっている邪魔なホブゴブリンを倒して……。朱音! 俺の攻撃が当たったのを確認したら後ろにいる探索者を直ぐに拘束してくれ」
「分かったわ」
「それじゃあ早速攻撃を放つ。……あのホブゴブリンは雷に耐性があったようだから今度は……『イグニッションアロー』」
属性弓で魔力矢に炎属性をエンチャントさせた魔力矢での攻撃。
地面を焦がしながら進むそれは通常、更にはエンチャントさせた他のどの魔力矢よりもスピードがない。
だがその容姿は他のどの攻撃よりものものしく、射抜く前からその威力の高さを物語っている。
『イグニッションアロー』がどんな効果のあるスキルなのか分からず何気なく使ってしまったが、ホブゴブリンの後ろにいる探索者や朱音のことを考えるとこの選択は間違っていたのかもしれない。
「炎属性の矢……。従来の攻撃に属性をエンチャントできるようになったってことか。ホブゴブリンの麻痺状態を見るに雷属性のエンチャントも可能……。二属性限定なんてのは中途半端だし、他の属性攻撃もできるって考えた方がいい、か。それにあの見た目……もっとスキルの調査をしたいところだけど……。ちょっと無理か」
「あがっ!」
魔力矢が当たる寸前、探索者は盾にしていたホブゴブリンを思い切り蹴り飛ばし、その背中を俺たちに向けた。
すると『モンスターコマンド』の効果でその姿は徐々にホブゴブリンへと変わっていこうとするがそれよりも早くその身体は『ノスタルジアの木』へと変化。
根となった足は地面に食い込み、頭部だった辺りは下り階段目掛けて伸びようとする。
もしかすると俺たちに拘束される前に命を賭してでも階段を塞いでしまおうとしているのかもしれない。
「そうなったらまずい――」
――ドンッッッッッッッッッッッ!!!
探索者の行動に焦りを感じ始めた瞬間、魔力矢がホブゴブリンに命中。
その身体を内側から炸裂させ、天井に届くほど高く登る炎の柱を出現させた。
そんな炎の柱は範囲こそ狭いがその周りに熱気を放ち続け、地面は焦げるだけではなく赤く色づく。
「これじゃあ探索者をどうこうする以前にここから前に進むことも……。高い威力が仇になったか?」
「飯村君見てあれ! 『ノスタルジアの木』が……」
「いつものように成長、していない?」
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