97話
「はぁ、モンスターと戦うより疲れたかもな……」
「やっぱりカリスマ性あるよね、飯村君……」
「ん? そうか? 俺からすればそういうのは朱音の方が有ると思うが」
「ううん。飯村君の方が……。なんか今ので学生の時思い出しちゃったな」
若い探索者による質問攻めをなんとかいなした俺は、疲労を感じながらクロと朱音と共に五〇階層を目指して階段を下っていた。
するとそんな俺の表情を見た朱音が意外な言葉を投げかけてきた。
確かに学生時代友人の多い方ではあったけど……。あれをカリスマ性があるなんていう風にあえて言葉にされるのは……。
俺自身あの時は自分の力量を理解できていなくて、才能を信じていて……生意気な学生だったと思っている。それこそ振り返ると恥ずかしく思えるくらい。
格好つけたようなセリフも平気で吐けていたあの時代は黒歴史と言って差し支えない。
「あの時はその……若かったな、俺」
「今も……。私からすれば最近の飯村君はあの時みたいに若く見えて……。はぁ、私なんてどれだけ化粧してもおばさんで――」
「いや、朱音はむしろ昔より綺麗で可愛いと思うが……」
「……そう、かな?」
自分を卑下する朱音の言葉をそれとなく否定。
きっと『お世辞でもありがとう』とかそういった返しが来ると思っていただけに、少女のように顔を赤くして照れてしまった朱音に俺まで少しどきっとする。だがそれを抑止するように俺の頭に過った拓海の言葉。
佐藤さんの件が終わり次第朱音との関係に答えを出さないと、だな。
「……」
「クロ?」
朱音との会話に間が生まれるとクロが俺の横にそっと寄ってきた。
そしてクロはそのまま俺の腕に自分の腕を絡ませる。
「その、クロ……。それちょっと歩きにくいんだが……」
「前、少し先にモンスターが見えるから。だからこうして攻撃力高めないと」
「あっ、確かにいるな……。それに人間が一人? でも、さっきの戦闘からしてそこまでの攻撃力は必要な――」
クロの言葉を否定しようとすると、俺の腕に絡まる細い腕にぎゅっと力が込められたのを感じた。
そして、まるで『一人にしないで』と言いたげなクロのそんな行動を受けて、俺は言葉を続けることを止めて戦闘の準備に入る。
「――朱音は魔力を温存してくれ。ここは俺が……。『パラライズディレイ』」
未だに顔を赤めている朱音に指示を促すと、俺は遠目に見えるホブゴブリンたちに向かって躊躇なく雷属性のエンチャントされた矢を放った。
ホブゴブリンたちは唐突に襲ってきた矢に対してなすすべなく、身に着けていた鎧はことごとく貫通できた。しかも雷耐性のない個体はその後いつものように爆散。
爆散した個体の近くにいた耐性のあるホブゴブリンたち数匹も過剰ダメージ分を与える衝撃波にやられ爆散。残ったホブゴブリンはあっという間に一匹となった。
しかもその一匹は『パラライズディレイ』を受けたことで麻痺状態に。
複数の属性を扱えるようになってはいるが、今後初撃はこのスキルで固定でいいのかもしれない。
「……どのスキルも強すぎる。って呆気にとられてる場合じゃない、わね。そもそも湧き潰ししている探索者が一人しか見当たらないなんて明らかに異常事態。きっとこの事態であの人もダメージを負って――」
「『ノーマライズヒール』」
「――え? なんでモンスターに、敵に回復スキルなんて……」
湧き潰しをしてくれていたであろう探索者に駆け寄ろうとする朱音。
しかしその足は探索者の思いもよらない行動によって止まってしまった。