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95話

「はぁはぁはぁ、交代の時間まだかよ……」


「まだ二時間しか経ってないだろ。それにリスポーンまでのインターバルは長い。お前うちのギルドに所属できて稼ぎが上がったからって探索サボってただろ?」


「淳さん! そ、それはその……」


「まぁ気持ちは分かる。ただ、今の自分の地位や強さに胡坐をかいてたら他の奴にどんどん抜かれて……。生活に困るとかそんなのはないかもしれないけど、自信を、探索者としてのプライドを折られかねない。俺も、お前も」


「……淳さん――」


「あ、淳! 今は淳がこの階層を取り仕切ってるのね」


「朱音、それにクロちゃんと飯村……」


 支度を済ませ早速ダンジョンに侵入した俺たちは、一階層でクロのワープゲートを使い四一階層に移動。


 するとそこには肩で息をする数人の探索者といつになく真面目な表情を浮かべる淳の姿があった。


 俺が知っている淳は活発でみんなの弟のような存在だったが……。ギルド内の後輩といるとこんな表情もできるんだな。


「それでどう? ホブゴブリンたちに変化はある?」


「相変わらずバフ効果のせいで生身に属性攻撃が通りにくいのが厄介……。ただ、俺たちも段々慣れてきてるからな。装備に対して魔法による属性攻撃、生身には物理攻撃って感じで連携をとりながらやってるよ」


「そう。万が一ホブゴブリンからゴブリンキングが生まれればあっという間にダンジョンにホブゴブリンが飽和。ホブゴブリンたちが階段を上り始めることになるだろうから、大変かもしれないけど原因を排除できるまで湧き潰しをお願い」


「分かってる。って言っても他の奴らがなぁ……」


 淳は朱音の言葉を受けて自分の周りを見渡した。


 地べたに倒れ込む他の探索者たち。表情には余裕がありそうではあるが、気だるさな雰囲気を身に纏っている。例えるなら日銭を稼ぐため仕方なくバイトをしているアルバイターのような……。


「佐藤みなみやダンジョンの異変が地上にとって脅威なのは分かってるけど、やっとこさこのギルドに所属できるようになった若い奴らはどうしても……。そもそもそこをゴールにしてる節すらあるのかもしれない」


「燃え尽き症候群ってやつね……」


「……。勿体ない奴ら。宝の持ち腐れだな」


 俺がぼそりと呟くと地べたに座り込んでいた探索者たちが目をぎらつかせて俺に視線を向けた。だが、俺はそんな奴えらに忖度することなく言葉を続ける。


「職業に恵まれて、仲間も金も装備にも困らないっていう環境なのに努力を止めるなんて……。俺だったらこういう奴らは全員ギルドを脱退させて、弱いけどやる気のある奴の育成に努める。その方が五年、一〇年先の自分たちのためになる」


「……。飯村一也。最近英雄とか言われて目立ってるぽっとでの探索者……。お前に、お前なんかに俺たちの何が分かる? 俺たちは汗水流して約半年休まず努力して努力してようやくここまできた。ちょっとくらい手を抜いたって……。それをとやかく言う資格はお前にはない」


「おい、飯村は――」


「半年、か。そうか、そうだよな。俺のことを知らないのも、そういう風に言いたくなるのも当然だよな」


 半年頑張ったんだからちょっとくらい。きっとそれが世間的な、当たり前の考え方なのだろう。


 ただ一〇年間サボらずダンジョンに足を運んでいた俺からすればそんな甘いことをいう奴なんて、しかも才能があるにも拘らずそれをいう奴なんて、嫌悪感しかない。


「そうさ。俺たちは――」


「だが拓海は常に貪欲に強さを求めて努力を惜しまなかった。そしてそんな拓海と最底辺の探索者だった俺が今では――」


「ぐぎゃああああああああああ!!」


 地べたに座り込む探索者と会話をしていると早くもリスポーンしたのか、それとも淳達が倒しそびれていたのか、ホブゴブリンが数匹、岩陰や地中から現れ襲い掛かってきたのだった。

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