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86話 ライバル

「――大丈夫!? って何してるの2人で……」

「身体が動かなくてな。それに動けてもしばらくはそっとしてやろうと思って……」

「んぅっ。もう食べれないよ……」


 大体1時間位だろうか、身体を癒す為にクロと2人で体を休ませていると視界に目頭に皺を寄せた朱音の顔が映り込んだ。

 側にいた拓海頭に手を当てて『呆れた』と言いたそうな様子。


 デジャブかな? この絵面を見たばっかりな気がする。


「クロちゃん! 起きて! 男の人の横であんまりにも無防備過ぎるわよ! 男は獣なんだよ!」

「獣って……。俺、動けないって言ったよな?」

「そんな事言って、右腕動かしてるじゃん! それだけであれやこれやが……。あーもうっ! クロちゃん私が担いであげるから一旦帰ろうね」


 朱音は疲れて眠ってしまっているクロを抱き上げて背中に乗せた。

 それを見ていた拓海は無言で俺の腕を掴み、肩を貸してくれる。


「一也、お前はそれでいいんだな?」

「何の事だ?」

「クロちゃんでいいんだなって事だ。俺としてはそっちの方が助かるが、朱音との間にしこりが残らない様にちゃんと話はしろよ」

「クロでいいも何も俺は……」

「さっきのお前の顔を見れば一目瞭然。明るく振舞っているが朱音も勘付いてる筈。伝えるのが遅ければ遅い程ダメージは大きくなるだろうから、なるべく早くだな――」

「拓海! モンスターが湧く前に急いで登っちゃうよ!」


 話を遮って朱音が大声で拓海を急かす。

 すると拓海は俺を背中に乗せて、思い切り走り始めた。


「……好きな女を振ってくれとそそのかしているみたいで、気が引けはするが、朱音がこれから先もお前に固執して不安な表情をするところは見てられない。残酷だが困った事があれば俺は協力を惜しまない。探索者としてはライバルだが、これに関しては仲間だと思って連絡してくれ」

「拓海、俺は……」

「ま、気が変わって朱音に、なんて事になっても今のお前になら任せられるかもな……。正直ここに来るまでに仕掛けられていた罠にはかなり救われた。あんな事が出来て気が使えるのはお前位なもんだよ」


 俺の反応を見てか、拓海は俺の気持ちを自分なりに汲んでフォローしてくれた。その顔には柄にもなく哀愁を感じる。

 朱音との事が無ければ、美味い酒を飲み交わせる親友になれたのかもしれない……。

 ただ、こんな急に気を遣われるのは少し気持ちが悪い。



「――前にトロルが5匹、ギリギリでまた湧いちゃったわね……」

「俺が仕留める! 『アクアバイン――』」


『魔力弓、魔力消費50。魔力矢、魔力消費30』


 それから32階層まで到達すると、トロルが湧き始めて前方を塞いでいた。

 拓海がスキルを発動させて対処しようとするが、俺はそれよりも早く魔力弓を具現化して弓を引いた。


「一也、お前、怪我してるんだからあんまりだな――」

「探索者としてライバルって言ったよな? だったら自分の獲物をライバルにとられるわけにはいかないさ。ダンジョンでは色恋沙汰より仕事が優先だろ?」

「……そうだったな。アダマンタイトクラスの俺が一也なんかに負けてられない。全部俺の自身の実力で……超えてみせる! 『アクアバインド』」


 放たれた矢が分裂して左辺に居たトロル3匹を殺すと、別グループを形成していた右辺の2匹を拓海が自身のスキルで溺死させた。


「俺の方が多く殺せたな」

「俺はお前を乗っ気ながら戦ってるんだ、ハンデがある状態でいい気になるのはどうなんだろうな?」

「2人とも! しょうもない事で喧嘩しないのっ! もう、2人とも子供なんだから。ねっ、クロちゃんもそう思うでしょ?」

「……一也さん。どうしよう、カッコいい」

「クロちゃん、起きたのなら1回降りてもらって……。私達も出入口まで勝負よっ!!」


 こうして俺達は全力でモンスターを殺してその数を競い合いながら全員で経験値も荒稼ぎして一度帰還するのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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