74話 意識するな
「……モンスターにもいるんだな、変態って」
『そんな風に言ってられるのも今だけよ。堅物な男がどうなるか……。楽しみねぇ。なんなら私のスキルじゃなくってもそっちの女の子がもっと際どい事をしてくれてもいいんだけど……。ほらもっと胸元開いて見せるとかすればどう?あ、でもそんなに見せる胸が無いのかしら?』
「一也さん、この岩壊してもらえる? 今すっごく不愉快」
「……了解した」
俺は怒気の籠った声を発し、少し顔を俯かせるクロの命令を聞き入れて弓を引いた。
統括モンスターのサキュバスとクロの相性は最悪。
俺としてもこの何とも言えない雰囲気は居心地が悪い。
これはさっさと終わらせた――
「クロ、急いで下に行くぞ。拓海と朱音が来る前に今みたいなのは全部壊さないとヤバいかもしれない。あんな幻覚を見て朱音や拓海がおかしくなることはないと思うが、道中を綺麗に片付けておくのは約束しているし、念には念をだな――」
『サポーターとの親密度が上がりました。攻撃力バフスキル:乙女の寵愛が解放されました。対象者に触れている間その対象の攻撃力が大幅に上昇されます』
「なんで、このタイミングで親密度が? だが攻撃力不足を感じていたからこれは有難いな。クロ、次の階層はちょっと俺に触れててもらってもいいか?」
「えっ……。その、必要だなって思ったらね。ほ、ほらステータスポイント振ればこんなの使う必要ないんじゃない?」
「それはそうかもしれないが、クロ、お前ちょっと様子おかしくないか? まあいいか」
『ステータス』
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名前:飯村一也
職業:弓使い【魔弓】(次回進化まで残り199)
年齢:28
レベル:301
HP:582/582
魔力総量:336
攻撃力:1114
魔法攻撃力:279
防御力:562
魔法防御力:562
会心威力:54200%
スキル:必中会心、変換吸収の矢(強化済み吸収効果アップ)、魔力矢(派生済み【黒矢】、魔力弓、回復弓、転移弓、時空弓
ステータスポイント:0
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俺は様子のおかしいクロを取り敢えずそっとしておいてステータスポイントを振った。
この攻撃力と会心威力で一撃で倒せないトロルのHPって一体……。
もしかしたら、ただHPが高いだけじゃなくてダメージ軽減系のスキルを持ち合わせてる、或いはそういったバフを掛けられている可能性も考慮した方がいいの。
サキュバスの話からするとサキュバス自身ダメージを負いながらマーキングをしていたみたいだからな。
会心威力に依存してここまで突っ走ってきたが、そろそろピンポイントでそれが効かないモンスターが出てきたりするのかもしれない。
思えば『ノスタルジアの木』は俺だけではどうしようもなかったからな。
「意識するな意識するな意識するな意識するな意識するな……」
「ステータスポイント振り終わったぞ」
俺はクロの肩をポンと叩く。
するとクロは体をびくっとさせて赤くなった顔で振り返った。
今まで妹みたいに接していたから、肩を叩いたりしてしまっていたが……。よく考えればこれってセクハラになるのかも……。
「す、すまん。そうだよな、こんな風にされたら嫌だよな――」
「嫌、じゃない。そ、そのとにかく先に進もう! こ、こんな事してる間にもみなみちゃんが何をしてるか分からないんだから」
「そ、そうだな」
さっきの幻覚の所為か、いつもよりその一挙一動からクロに対して女性らしさみたいなものを感じてしまう。
「……まだ31階層。これは今まで一番きつい探索になるかもしれない」
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