71話 有難い再生能力
「あ……人、間? いい匂い。ボスもいい、けど、人間もいい!!」
俺達に気付いたトロルが一匹俺達の元へ向かってきた。
その手には食いかけのトロルの死体。
ひどい匂いと醜い見た目だけでなく、共食いするという事実が俺の中の気持ち悪いという感情を更に膨らませてくれる。
さっき階段で殺していたトロルに比べて筋肉質という事は、それなりに強いという事なんだと思うが……。
「そんな事を確認してやる時間も体力も無駄だな」
俺は近づいてきたトロルに対して弓を引いた。
しかし……
「ぐ、うう。いってえ。いてえよお……」
矢はトロルの半身を爆散させて見せたが、一撃では仕留め切れなかった。
弓の具現化を少なめの魔力消費で済ませた事も原因なのだろうが、このレベルの個体は今の俺にはまだ一撃では無理か。
「いてえ、いてえ……あ、む、ぐ、んっ!」
大きなダメージが入ったトロルは手に持っていた仲間の腕を脂汗を掻きながら必死に貪った。
すると吹き飛んだ半身は元に戻り、トロルの様子が少し変わった。
仲間を食った事が原因なのか、それとも瀕死状態からの復活が原因なのか、どちらにせよ分かった事が1つ。
こいつらはこの地獄のような環境で自分達を強化している。
違う。強制的に強化させられている。
目的はおそらく階段を突破して外に出られるような個体作り。
最初は鞭を持った奴が31階層から40階層の統括モンスターで、馬鹿のひとつ覚えで進軍させようとしていたのだと思ったが……この状況を作った奴はトロルとは別ものらしい。
「ふう。力、満ちる。これなら、殺せるっ!」
「お前だけ、ズルい!」
一匹のトロルと戦闘をしていると他の個体もそれに気づいて一斉に襲いかかってきた。
距離はそこそこ。反動を受ける弓を使って一掃する事も出来るだろうが、反動後にこの様子を冷静に見ている鞭を持ったトロルにどこからともなく一撃を受ける可能性があるかも。
面倒だが一匹ずつ殺すか。『魔力矢、魔力消費70』
「うぐああっ!!」
「こい、つ、うあああああ!!」
トロル達はその驚異的なHPと回復力を用いて、俺の矢に耐え切れなかった個体の死体を食いながらジりジりと詰め寄る。
撃つ、瀕死、食う、再生、近寄る、撃つ、品沿い、食う、再生、近寄る。
ルーティーンが出来上がり、それは永遠に続けられそうにも思える。
その繰り返しの中で強化されていくトロル達の様子を見れば。統括モンスターは強化がこんなに高速で進行してほくそ笑むのかも知れない。
「だがそんな糞みたいな笑みは直ぐに消えるが。何故なら――」
『ボーナス経験値を取得しました。レベルが280に上がりました』
俺が弓を引く度にトロルよりも早く俺がレベルアップをするから。
この攻撃力でも死なないようなトロル達だけあって取得出来る経験は膨大なようだ。
しばらくそれを繰り返すと、俺のレベルは遂に300の大台を超える。
『レベルが300に上がりました。スキル:時空弓を取得しました。時間を置いて対象のモンスターへと矢が放たれます。対象のモンスター、或いは部位が存在しない場合、余った矢はストックされ、時間を置いてランダムに放たれます』
「面白いスキルだな。ちょっと使ってみるか」
俺は時空弓でトロル達の右腕を狙い大量の魔力矢を放った後に、今度は魔力弓でその部位を爆散。
条件を満たして、どうなるか待つ。
――にょん
それから数秒後、ストックされていた矢の先端が一斉に空中の何もなかった場所から顔を出し……全射出。
大量の魔力矢は使用者の俺ですら読めない軌道で自由に飛び交い始め、あちらこちらでトロルを爆散させた。
その様子は不思議と少し綺麗で、例えるなら絶え間なく打ち上がる花火にも見えた。
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