67話 あなた達を殺す
「こいつらは放っておいても大丈夫だ。先を急ぐぞ!」
周りにいた探索者とモンスターを片付けると、拓海が遺跡の入り口に向かって走り出した。
――シュル
すると、入り口の奥から見慣れた金色の管が姿を現した。
確かヒューマンスライムは他の階層に影響を及ぼせるだけで、外に出る事は無理だったはずじゃ?
「――佐藤様、ここは私が何とかしますので」
「そんな事言ったっても外の人達もう全滅でしょ? あなた一人で何が出来るっていうの?」
「それは……」
「それに大丈夫だって。あの人達は私に攻撃出来ないから」
金色の管、触手が続く先を見ると、そこには腰の低い男性が1人と佐藤さんの姿があった。
だが佐藤さんの様子は明らかにおかしい。
部下に話しかける様な少し威圧する雰囲気、それと何といってもその右半身。
右腕はにゅるにゅると動く触手に。そして顔の半分は人の肌ではなくスライムのそれになっている。
「……みなみちゃん」
「久しぶりね。まさかあのメッセージを受け取ってすぐにここに辿り着くなんて思わなかったよ。まだまだあなた達を倒す準備が出来ていないってのに……。旧ダンジョンと新ダンジョンのリンク地点ってのが問題なんだろうけど……。こりゃあそことあそこも何とか隠さないとね」
「みなみちゃん、その身体は?」
「あーこれは私が緊急で外にモンスターを排出する為に仕方なく体内に飼ってるんだよ。最初は私も不安だったけど『モンスターコマンド』を使えばこんな事だって出来る。私の作ったダンジョンが世界を変えるまでそう時間はかからないかもね」
佐藤さんはそう言うと触手をうねらせて軽く笑ってみせた。
その顔は恐ろしい程無邪気で、本当にゲームをしている時のまま。
「そのスキルで人が死んだんだよ。それ使うとみなみちゃんもきっと危ないんだよ」
「スキルのデメリットを伝えた上で『ギフトスキル』として『モンスターコマンド』は渡したんだから、私に非はないんじゃないかな。そもそも、『ダンジョンクリエイター』を発動させた時点で私は勿論、賛同した探索者も覚悟を持っているはず。だってそれがスキルの発動条件だから」
ダンジョン生み出すスキル、か。
という事はクロの居た旧ダンジョンも同じようにして生まれたのか?
であればだれが何の為に?
「分かっててやってるんだね……」
「勿論。今のところは何もかも順調よ。旧ダンジョンにその効果を引っ張られているのかフェーズもあっという間に2になったし、現行世界をファンタジーで私達好みの住みやすいものに変えるにはやっぱり旧ダンジョンのフェーズ進行も重要ね」
「異変は私達が止める」
「だったら私はあなた達を殺す」
クロと佐藤さんの視線がぶつかり合い火花が散るようだ。
この様子だと佐藤さんが洗脳されているという線はもうないだろう。
「――でも、殺すにはまだまだ力が足りない。今日は挨拶という事にさせてもらうわ。ふふ、私の魔力と記憶とを引き換えに発芽しなさい。『ノスタルジアの木』」
「ご、あ゛ごでは?」
「『モンスターコマンド』取得、発動のリスク、それは従えたモンスターをないがしろにする様な行動をとった場合、強制的に自分をそのモンスター達を統べる存在へと変化させるというもの。それと、私と盟約を結んだ者は時に私の記憶を後世に残す木へと姿を変えるという事。そう、あなたにはとっても名誉な仕事を与えてあげるってわけ」
男の身体は次第に大木へと変化する。
根となった足は遺跡の入り口全体に這っていく。
「安心して、生きる為の魔力を私が与えてあげる。それに、戦力が整ったらその姿を戻す事も出来るから。ただあなたの自我が残ってるかどうかは分からないけどね」
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