60話 音信不通
『アダマンタイトクラスの探索者30階層を突破! 40階層の正常化を図る為連日探索活動。最早英雄の出番無しか?』
『正常化反対派再び暴走! 荒れる若者の街! 正常化を図るアダマンタイトクラス探索者を狙って、突如現れた遺跡で決起集会か?』
ネットニュースの見出しを見ながらコーヒーを啜る。
『ノスタルジアの木』の処理が出来たという報告は朱音から昨日聞いていたが、まさかこんなに早く30階層の正常化を済ませるなんて思ってもいなかった。
おそらくは拓海が俺にライバル心を感じて自分達だけで正常化出来るというところを見せようとした結果なのだろ。
喜ばしい事なんだが出し抜かれた気がして少し悔しい。
ダンジョンが進入出来る様になったのであれば今すぐにでもダンジョンへ行きたいところなんだが……。
「なんで連絡来ないのみなみちゃん……」
ゲームのフレンド機能からもう何度目か分からないお誘いメッセージを送るクロ。
探索者に襲われてから今日で2日目。
何故か佐藤さんは音信不通になってしまっていた。
その所為でクロは佐藤さんからの返信が来るんじゃないかとゲーム画面の映るテレビの前から動こうとしない。
デザートを買いに行こうと誘った事もあったが、クロはやんわりとそれを断った。
出会ったばかりの人と少し仲良くなったくらいでここまで思い入れが膨らむという事は俺にはないが、クロにとってみたらちゃんとしたこっちの世界での初めての友達。
子供の時に友達が引っ越しでいなくなってしまう様な喪失感があるのだろう。
そっとしておいてあげるか? でもダンジョンに行くならクロを連れていきたいところ――
――ピンポーン!
今日の予定を決めかねているとインターホンが鳴った。
誰か来る予定はなかったはずだが、俺の家の場所を知っているのはあいつくらいしかいないか。
「また来たのか。30階層を正常化したばかりなんだからちょっと休んでも――」
「よ、よう」
「た、拓海?」
「と私、朱音もいるよ!」
玄関の扉を開くとそこには前見た時よりも健康そうな顔になった拓海と不自然なくらい笑顔の朱音がそこに立っていた。
「2人で来るなんて……一体どういう風の吹き回しだ?」
「ちょっと聞きたい事があって、それと言いたい事があるんだよね拓海」
「言いたい事?」
わざわざ俺に直接言いに来るって事は……。何か俺拓海を怒らせるような事したっけな?
「……一也ちょっと耳を貸してくれ」
「え? あ、ああ」
拓海は怒っているというよりもどこかそわそわしている様子が見られる。
こんな拓海は今まで見た事が無い。
「佐藤っていう女に手を出しているらしいが、あれは止めておけ。それと今日の朱音はああ見えて危険な状態だ。外でスキルを使える状態の今、何をしでかすか分からん。いいか、ヤバそうな時はちゃんと朱音の機嫌をとるようにするんだ」
「拓海、なんで佐藤さんの事を――」
「あ! 馬鹿っ!」
「飯村君……やっぱり知ってるんだ、佐藤さんって娘の事。今日はね、それについていっぱいいっぱい話してもらうから」
「佐藤さん……。一也さん! もしかしてみなみちゃんがまた来てくれたの!?」
佐藤さんという名前に反応したクロ。
その言葉を聞いた朱音は更に口角を上げ、拓海は右手で顔を押さえる。
「久しぶりクロちゃん。そのみなみちゃんっていうのはよく家に来ていたのかな?」
「久しぶりです朱音さん! そうなんですけど、最近は連絡取れなくて……。ちょっと前までは一也さんと私とみなみちゃんで明け方まで頑張ってたんですけど……」
「明け方まで3人で、頑張ってた?」
「一也……。お前、有名になったからってそれは……」
「お前らとんでもない誤解してるな。弁解するからとにかく上がってくれ。それに、俺も2人に聞きたい事が出来たからな」
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