56話 ゲーム
「ふわぁぁぁぁ。信じられない人の量で目が回っちゃったよぉ」
「俺達の住む辺りは東京でも庶民的な場所だからな。駅までバスを使う必要があるっていうのは面倒だが、ダンジョンが危険な状態の今、少し移動が面倒なくらいの方が万が一の場合被害が少なく済むっていう利点も――」
「わっ、わっ! あの赤い建物は何? フリフリのあの服可愛い! あのおっきな絵、すっごい綺麗! すごい! これが『秋葉原』ってところなんだね!」
俺が親密度上げに選んだのは、サブカルの聖地秋葉原。
新宿の歌舞伎町、横浜の中華街、若者の聖地原宿、観光やデートスポットに最適な場所に溢れた関東地方で敢えて俺はここ秋葉原にクロを連れてきていた。
理由としてはクロはテレビにすごく興味があるようで、その中でも絵が動くアニメへの興味が高かったから。それにここならエルフ耳をしていてもそういうメイドさんや、ちょっと変わった子だと思われるだけでじろじろ見られる事もなく声を掛けられる事が少ないと思ったから。
個人的には秋葉原周辺はラーメン激戦区らしいから、それ目当てでもある。
「ああ。クロが見てたアニメもスタートしたばかりだから大々的に広告が出てるな。ショップでもアニメのイベント一杯やってるみたいだし……さ、どこから行く?」
「……」
「クロ?」
「何かあの辺、人が多い……。皆何か持ってるけど、何してるのかな?」
クロが熱い視線を送るのは家電屋前の広場に集まるおじさん達の群れ。
その手には最新のゲーム機。
オフラインでイベントを行なってるのか、それともすれ違い通信的なことをしているのか。
「あっ! あの、あなたもそれで何かするんですか?」
「え?」
「おいクロ! あんまり勝手に声を掛けると迷惑になるから――」
「だ、大丈夫です。ちょっと驚いたけど。今日はすれ違い通信機能を使って公式の運営さんがここで交換会をしてるから人が多いんですよ」
クロが話し掛けた眼鏡をかけた女性ははにかみながら説明をしてくれた。
その様子を見たクロは女性に気を許したのか、更に言葉を続ける。
「それってこれに関係して――」
「御明察! 今最も盛り上がっているRPG『ウィザードハンター』。やり込み要素である『極ダンジョンシステム』の中で少しでも上位に食い込みたくてみんな必死なんですよ」
クロが広告の絵を指差すと女性は意気揚々と話し始め、目を輝かせ始めた。
奇しくもクロが見たアニメもこの『ウィザードハンター』だった為、聞く姿勢は十分だ。
「私も上位に食い込みたくて、普段外に殆ど出ないんですけど、今日は思い切って出てきてしまったってわけです。これも何かの縁。あなた、私とフレンド登録してくれませんか? 女性ユーザー同士で楽しめたら絶対楽しいですよ!」
「えっと、でも、私はそれ持ってなくて。やってみたいんですけど……」
「そうですか。最近はゲーム機も高いですからねえ。私も探索者として働くのを諦めてから、アフィリエイトで稼いで買ったものですよ」
「あなたは元々探索者だったんですか? あ、すみません、初対面で質問してしまって……」
「こちらの方のお兄さんですか?全然かまいませんよ。それで、答えは『はい』です。でも全然駄目で、職業もクリエイターっていう非戦闘系。最初はゲームの世界に飛び込んだみたいでうきうきしてたんですけど、現実ってのは非情です。せめてこのゲームの中のキャラクターと同じ戦闘力があれば楽しめただろうになぁ」
たまにいるリアルのダンジョンとゲームのダンジョンをごっちゃにするタイプの人か。
こういった人は軽率に命を落とす可能性が高い。
この人もそうとは限らないが、才能が無かったのはむしろ運がいいのかもしれない。
「そ、それでその『ゲーム』というのは面白いんですか?」
「勿論! 良ければ私のでちょっとやってみます?」
「いいんですか!? その、一也さん……」
クロの訴え掛けてくる視線。
こんな視線を送られたら誰だって甘やかしたくなる。
「はぁ、しょうがない。買ってあげるよ。今は懐に余裕もあるから」
「だったら私が色々教えてあげます! 付いて来てください! ゲーム機選びもそうですけど何より重要なのはアクセサリー品で……。あ、言い忘れてました! 私は佐藤みなみって言います!」
「えっとこっちはクロ。俺は飯村――」
「飯村さんとクロさん……。もしかして、今ネットを騒がせているあのお二人ですか? うわあっ! 私今日ついてるかも! あの後でサインお願いします! それでアクセサリー品なんですけど――」
フルスロットルで会話を続ける佐藤さん。
流石のクロもこれには引いてい――
「あの、ありがとう」
クロは俺の背中にそっと触れると嬉しそうにお礼をしてくれた。
ゲームを買ってもらえることが嬉しくてか、佐藤さんの話どころじゃなかったみたいだ。
『サポーターとの親密度が上がりました。エンチャントスキルが解放されました』
このタイミングで上がる親密度。
目論見通りで嬉しいんだが上がる原因が現金過ぎる気が……。
クロの未来の事も考えて、もっと健全に親密度を上げないと……。って俺いつの間にかクロの保護者みたいになってないか?
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。




