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54話 指輪

――ガチャ


「……お邪魔しまーす」

「はぁ……。わざわざ家に押し掛けるなんてどういう風の吹き回しだ? 小学生以来とかだろ?」

「うん。小5の夏に親が2人共出張で出掛けちゃって……。飯村君のご両親がたまたまご飯に誘ってくれたんだよね」

「そっか、あの時振りか。外では結構会ってたけど……。私服、なんか新鮮だな」

「えへへ、に、似合うかな? 今日は拓海の様子を見にビルに行っただけだから探索用の服じゃないんだぁ」

「そっか。まぁ似合うんじゃないか?」

「なんか適当ね」

「嘘をついてるわけじゃないんだからこれで満足してく――。その指輪は……」


 申し訳なさそうな顔で玄関に現れた朱音は普段のスポーティな格好ではなく、清楚系のスカート姿。

 そんな朱音を見て普段の印象とは違い過ぎて一瞬照れてしまったが、見つけた指輪を下げたネックレスがそんな感情を吹っ飛ばした。


 だってあれは……なんで朱音が持ってるんだ?


「あ、これ、飯村君の家に行くならお母さんが身に着けていくといいって……。あ!? その、えっと、今のはなんでもなくて! 探索者ビル行ってから家に帰っておしゃれなんか――」

「お母さん?」

「う、うん。これ私が気付いた時からずっとお母さんが着けてて……。婚約指輪と別に着けてて……」

「そうか。いや何でもない。そっか、多分うちの親も同じところで買ったんだな」

「それ、お仏壇の……」


 俺と朱音の会話を聞いていたクロがぼそりと呟いた。

 家の中をばたばたと散策してたから、クロも気づいたのか。


「飯村君?」

「いや、父さんが死に際に握ってた指輪、両親の結婚指輪がそれと同じ物、いやあまりに似てるものだからつい、な。それより朱音は何しに来たんだ? こんな話がしたくて来たんじゃないだろ?」

「う、うん。えっと、なんかタイミング逃しちゃったんだけど……。飯村君、なんでクロちゃんを自分の家に連れ込んでるのかなぁ? 江崎さんが2人が楽しそうに買い物して同じ方向に帰っていったって言ってて、まぁそんな事飯村君はしないだろと思ってでもい・ち・お・う確認しに来てみたら……ちゃんと説明してくれるかな?」

「そ、それは――」

「あ、あの、お、怒らないでください! ここで暮らしたいって言ったのは私で! 飯村さんはそれを許してくれただけですからっ!」

「こ、ここで暮らす? 2人で? それって同居……」


 俺をフォローしてくれたようだけど、逆効果。

 朱音は瞬きもせず固まってしまった。


 朱音も俺もいい歳だし、同居とかって言葉に敏感なのは分かる。

 分かるが、クロの現れた経緯とかを知ってるんだからなんとなく仕方なくこうなったって事を理解してくれないかな。

 最悪このまま『ファースト』の連中に俺がダンジョンで見つけた女を持ち帰って楽しんでるとか、ヤバい噂が探索者の間で広まったり……。

 それだけは阻止せねば。


「あ、朱音。これには訳があってだな。そのとにかく話したいから中に――」

「酒」

「え?」

「話は酒を飲みながら。クロちゃん! あなたもよ。あー緊張解く用に大量に買ってきておいて良かったわ」


 朱音は後ろ手に隠していた特大のビニール袋からロング缶のビールを取り出し、押し付けるように俺とクロに手渡してきた。

 そういえば朱音って本音で語る為とかって言ってこうやって人に酒飲ませるんだっけ……。その割に酒癖は最悪で……。


「2人でしっぽり夜を過ごそうなんて……そんなのさせてあげないんだから。ん、ぐ、あぐ、くっはああああああああああ!! 気を取り直して、おっ邪魔しまーす!!」

「おいおいおいおいおい玄関で飲むなよ、もう」

お読みいただきありがとうございます。

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