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36話 昆虫

「ギギ……」

「ヘルマンティスか」


 意気揚々と11階層に移動すると俺達の目の前に早速モンスターが現れた。


 11階層から20階層は昆虫型のモンスターが蔓延るゾーン。

 昆虫型モンスターは耐久力が無い代わりに、状態異常を付与してきたり、体内で生成した糸などで罠を作ったり、とにかく戦い方がトリッキーで上層階を抜けてきた探索者でもごり押しばかりだと足元を救われる相手。

 深い階層よりもこの階層で亡くなる探索者が多い事からデッドゾーンなんて言われ方もしている。


 正面に見える巨大なカマキリといった見た目のヘルマンティスは確か保護色を用いて襲ってくるとか。


「クロ、気を付けろ。なるべく俺の近くにいるんだ」

「はい。でも私、攻撃は全然ですけど防御力や耐性には長けてるのでこの辺りのモンスターくらいどうってことないですよ。飯村さんは私に気を遣わず思うように戦ってみてください」

「そうか、ならお言葉に甘えて……魔力消費10」


 俺は早速具現化した矢をこれまた具現化した弓に装填した。

 するとヘルマンティスはこちらの殺気に気付いたのか、瞬く間に姿を消した。


 これが保護色。

 実際には見えているはずだが、保護色の精度が高すぎて透明人間を相手にしているような気分。

 だが残念、俺の矢は相手が見えずとも必ず命中する。


「設定を変更……。面白いが俺の前では無駄な事だったな」


 弓を放ち飛び出た黒い矢は、姿を隠すヘルマンティスに向かい容赦なく飛んでいく。

 そして、それはあっという間にヘルマンティスを捉え、その身体を爆散。当たりに広がった衝撃で更に隠れていたモンスター達が爆散。


「……弱いな」


 変換吸収の矢で魔力を回復しつつ、俺は呟いた。

 正直なところ、HPが多くて根性スキルを持っていたウォーコボルトやロードコボルトの方が遙かに強く、モンスターと戦っているという充実感の様なものが感じられていた。

 だが、この調子だとそれを感じさせてくれるのはボスくらいのものなのかもしれな――


「飯村さん、全部変換吸収の矢で吸収しましたよね?」

「ん? 吸収したがどうしたんだ?」


 いつの間にか俺の側から離れていたクロが、ヘルマンティスが爆散した場所で怪訝な顔を見せる。

 不穏な空気が辺りを包み、俺は遂喉を鳴らしてしまう。


「これ、地面に落ちてたんですけど……多分、モンスターです」


 クロが拾い上げたのは、細長く黒い虫。小さくて細かい脚が非常に気持ち悪い。


「まさかそいつがヘルマンティスの体の中に?」

「そうだと思いますが、このモンスターも統括するモンスターも私は見た事がなくて情報は無し……。断言は出来ません。ただもし予想が当たっていたとするなら、このモンスターは相手に寄生するタイプのモンスターで、寄生する事で攻撃を寄生先のモンスターに肩代わりさせる力があるという事が分かりますね」

「生存に長けたモンスターか。まぁそいつ自身の戦闘力は低そうだから、あんまり警戒する必要はないだろ」

「そうですかね? 見た事のないモンスター、寄生するという習性。これって階層を統括するという事に繋がっていそうじゃないで――」

「クロ!?」


 クロの掴んでいたモンスターが、急にその身体をよじらせてそこから抜け出した。

 そしてそれは会話をする為に開いていたクロの口の中へ。


 金色スライムは外に出る為に増殖した。

 であればこのモンスターは外に出る為に、人に寄生しようとしているんじゃ……・


「クロ!! 急いでそれを吐き出せ!」


 俺は飲み込んでしまったモンスターを吐かせる為にクロの口に指を突っ込んだ。

 だが漏れてくるのは唾液だけ。


「飯村、さん」

「クロ! 良かった、自我を乗っ取られるって事はないみたいだな」

「い、いえ。もう限界が、近いです。このままじゃ私が、私じゃなくなる。早く、逃げ――」


 すべての言葉を言い切る前にクロの手は俺の頬を掠めた。

 本人が言っていた通り、それには肉を深く斬り割く程の攻撃力は無いが……。


「クロが俺に攻撃するなんて……。寄生虫、か。これは最悪な探索になりそうだ」

お読みいただきありがとうございます。

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