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164話

「分からない。声だけが聞こえてて……。今日この日にあなたたちが来るから一緒に帰れって……。ダンジョンは私がどうにかするから、らしいわ。でも、私はそれが納得いかなくてね。せめて自分で作ったダンジョンだけは自分の手で壊そうと――」


「壊したところであなたの罪は変わらない。なかったことになんてならない。あなたのせいでここの人たち、現代でもあなたの味方をした人がモンスターになって今日まで苦しめられたのよ。それにダンジョンを壊せばその人たちはどうなると思う? 恐らくは死ぬことになるのよ」


「私の考えに賛同した結果、だから……。このまま何回も何回もモンスターとしての人生を繰り返すくらいなら殺してあげたほうが――」


「でもあなたは帰るのよね? その人たちを殺しておいて何食わぬ顔で元の生活をしようとしてるのよね?」


「申し訳ないとは思った。でも……ああなったらもう、万が一人間の姿に戻ったところで、精神面は完全にモンスター。欲望の赴くまま暴れる」


「あなたは違うの? あなただってちょっと前スライムみたいになっていたわよね」


「それが私は不思議と目覚めたときからこの状態で……」


「なんであなただけ――」



「朱音」


「……飯村君はいいの? 言いたいこといっぱいあるじゃないの?」


「ある。けど、それを言って責めて……それで俺たちの知ってるクロが喜ぶでもすぐに帰ってくるでもないだろ? それよりも、姫様じゃない、クロはこっちでまだ生きているって事実を知れたことが俺は嬉しい」


「そう。……そうね。私、ただ責めたい気持ちだけを適当にぶつけてすっきりしようとして……そんなのあの子が望むわけないわよね」


「あ、あの……。皆さん知り合いだったのは分かったんですけど……蚊帳の外はちょっと嫌かなぁ、なんて。いつの間にか近づいてるし、自分たちだけが分かるようにか私に背を向けて話してるし、盛り上がってるのになに話してるかほとんど聞こえないし……」



 まずい。想定外な出会いのせいで姫様のことをすっかり忘れてしまっていた。


 当然今の聞かれてたし、ある程度説明は必要なのかもしれないけど……今後の姫様、クロの歩むであろう道を教えるのはあまりに酷だよな。



「どうやって説明したものかな」


「あまり未來のことを話しすぎると歴史が大幅に変わるかもだから、私は必要最低限しか話してないし、話せないと伝えているけど」


「歴史を大幅に変わる……。それを危惧してるならダンジョンを壊すってのはやめたほうがいい。それだと俺たちとクロは出会わないことになる」


「……出会ったことがなくなるのは悲しい。けど、そもそも私たちがクロちゃんと出会うこと自体正史からずれてるって思えば――」




「あの! だから蚊帳の外はやめてくださいってば! これじゃあいつまでも経っても聞きたいことが聞けないですよ! あーもうっ! ……あの佐藤さん! あなたには敵意がないんですね? この事件を引き起こした人物でもないんですね?」




 控えめに、身を引いていた姫様がついに爆発した。


 ただぷくっと頬を膨らませる仕草が可愛らしくてあまり怖くはない。



「……それは、はい。私はただダンジョン、遺跡を攻略すれば解決できると思って今回を含めずっと行動していただけです」


「なら早くそれを言ってよ! 各地の遺跡であなたを見たって、もう言ってしまうけどいろんな人が疑ってたんですよ!」


「そう、だったんですね。でも私と話したことでその人の未来が――」


「未来も大事ですけど、私たちは今を生きてるんです! 遺跡……ダンジョンって言ったほうがいいんですか? 話を聞いて、それを攻略したいって思いが一緒なことを知りました。だったら! どこの誰であろうと協力しましょうよ。話し合いましょうよ」



 泣きそうな顔でらしくない勢いのある、説教にも似た語りを披露されて俺たちはついつい黙ってしまう。



「話せること話せないことあると思いますが、その上で今後についての作戦を練りましょう。……さて、じゃあ一先ず王都の復興を手伝って頂けますか? 勿論寝食はこちらで用意しますから。あ、こっちにもポーションをお願いします! 私含め全員で配り回るので!」



 朱音は若干笑みを浮かべながらやれやれといった様子で佐藤さんはポカンと口を開け、もう反論する気がないようだ。


 クロの芯の強い部分というか、自分の考えを押し通す力みたいなものは姫様という立場がそうさせていたのかもしれないな。



「……。佐藤さん、これ」


「……私、人殺しがこんなことするのっておかしいよね……」


「しないよりよっぽどいい。それにダンジョンを壊すなんて泣きそうな顔で言ってたのに……俺がポーションを向けたときの佐藤さんの顔はちょっと嬉しそうだった」


「……弱いね、私」


「ああ。でもそっちのほうが『人間』らしいじゃないか」

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