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163話

「――んぅ……。眩しい。外……でも空中じゃない、みたいね」


「ああ。地上で間違いない。そしておそらくここが王都。それでそっちの遺跡がおそらくダンジョンに続いていたんだと思う」


「まさか、歴代の王が祭られている墓がゴブリンどもの巣窟となってしまっていたなんて……。国民の誰もが思いもしなかったはずです。それだけ神聖で入る者も限られている場所なので……」


「トモヤの言う通りです。そして、だからこそ調査することを怠ってしまっていたんです。そのせいで……国はこの始末……」


「ゴブリンたちは消えているみたいだけど……。酷いわね、これ」



 ダンジョンの機能で強制排除された俺たち。


 その晴れ渡る空に反して初めて訪れた王都はそこら中で人が倒れ、それを介抱する人たちで溢れかえっていた。


 中には死体と、それを抱きしめ泣いている人たちもいる。



 現代でもこれが起きうる、そんな状況にあるということなんだよな……。



「――おい! 城からポーション持ってきたぞ!」


「し、城!? お前、もしかして盗んできたのか!?」


「だって……しょ、しょうがないだろ! こんな状況なんだ! 王族のもんだろうと使えるものは使わせてもらう! それにゴブリンは真っ先に城を狙った。王族はもう――」



 脇道からここまで走ってきた男。


 その手には大きな箱いっぱいに詰められた瓶。


 最早王都は無秩序。


 トモヤの顔からは血の気が引いている。



 俺たちがきたからといってどうにもならない、そんな絶望的な状況。



 だが、何を思ったのか姫様は朱音の腕からゆっくりと降りてその男に近づいた。



 叱責でもするのだろうか?



 姫様に気づいたその男を含め、辺りには緊張感が走る。



「ひ、姫様、これはその……」


「これってまだ倉庫に残ってたかしら?」


「え? え、えっと……はい。まだかなり」


「そう。ポーションには期限がないからこの時を、未來の断面を見た誰かが用意していたのかもしれないわね。……。申し訳ないけど何人か連れてこれを城から持ち出して来てくれるかしら?今から王都の復旧をします」


「は、はい!」


「あ、それとこれいくつかもらってもいいかしら?」


「も、勿論です!」


「ありがとう。トモヤこれを飲んで! あとあかりと、お父様にもこれを飲ませて! そして気がつき次第住人たちへの指示命令をさせてください」


「わ、分かりました!」


「一也さんたちもこれを」


「い、いえ俺たちは……」


「いいから! ……本当に申し訳ないんですけど、2人にはまだ仕事をしてもらいたくて」


「仕事、ですか?」


「ええ。護衛の仕事です。恐らく戦闘になることはないと思いますが、万が一ということもあります。今回の事件、ゴブリンの発生という事態の収拾……そんなことができるのはあの人だけ。そしてそれを引き起こすことができるのも……」


「あの人……それってダンジョン、遺跡に関連する人なのよね?……。いえ、まさかとは思うけど……」


「お心当たりがあるのですか?であれば、お二人がこのタイミングで現れるのもあの人は知っていて、それようの行動をとっていた可能性がありますね。あの人がまともに話して……動くようになったのはここ10年くらいの話ですから……」



 俺たちが現れる時期を知っていたかもしれない、ダンジョンの操作が可能、ダンジョン最新部にあったあのオブジェクトを壊せるほどの高い戦闘力。


 でも俺たちが『出会った時』あいつにそこまでの強さはなかったはず。


 それに、だとしたら俺たちを助けるようなことをするのも、ダンジョンを攻略するようなことをするのもおかしい。


 ……俺の予想が当たっている可能性は低――




「――本当に……来た。これで私は帰る。あの世界に。でも、その前にこのハズレスキルをぶっ壊して……。でもクロちゃんは……」




 ボソボソと呟く女性。


 それはクロが必死になって連れ戻そうとした人間。


 あの時の、初めて会った時と同じ人間の姿をした佐藤さんがゆっくりと俺たちの元まで歩いて来ていた。




「……おい。クロはどこだ?」


「……久しぶり、ね。その、あの……私、酷いことをして――」


「謝罪なんていらない。もう一度聞く……クロはどこだ?」




 なんでお前がここにいるのか、どんな気持ちで謝罪をしているのか、佐藤さんを問い詰めたい気持ちがないわけじゃない。


 でも今はそれ以上に佐藤さんが姫様ではなく空に向かってクロの名前を発した、その意味だけが知りたくてたまらなかった。

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