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158話

ここまでを2章予定。

俺の予想通り、その場には朱音の姿があった。


 あかりの様子がどこかおかしく思ったが、それを考えるよりも先に朱音の名前を呼び、念入りに魔力を込めた魔力矢を発射。


 すると簡単に大量のテンタクルゴブリンは爆散。

 爽快感が全身を駆け巡る。


 人間に寄生したテンタクルゴブリンに関しては攻撃の対象に選べはするものの、モンスターとしての判定がまだ曖昧なようで、衝撃波の影響を受けなかった。だが、それでもこの場の殆どのテンタクルゴブリンは魔力へと変わってくれた。


 そしてそれを逃さまいと朱音が俺の下へ駆け寄ってきてくれたのは良かったのだが……。

 まさか、こんな風に飛びついてくるとは思わなかったな。


 しかも服が破けて、直接肌の温もりを感じてしまうのは……凄い罪悪感が。


「あ、朱音。その……そんなに引っ付かなくても大丈夫だぞ」

「ごめんなさい。勢い余っちゃって……」


 ごめんなさいと言っている割に、顔が笑っている。

 結構危ない場面だっただろうから安心の方が勝っているのかもしれないな。


「朱音は無事として――」

「た、助かりました! でも、あかりが……。先代も、姫様も……」


 俺が視線を向けると、食い気味に返事をしてくれるトモヤ。


 そしてあかりの様子がおかしかったのは、やはりテンタクルゴブリンに寄生されたからだったか……。


 さて……。とすればどうする?


 危険な存在となってしまったとあれば……殺すか?

 ……。いや、モンスターとしての判断が曖昧な上、全員内で抵抗しているのか、ぴくぴくと身体が動いているし、微かに人の声を発している。


 村長の時と違うこういった反応が見られるということは、まだ自分の意識があり、精神的にも肉体的にも支配されきっていないはず。


 まだ助けられる。

 だがどうすれば……。


「……。そうだ。朱音、魔力はどの程度回復した?」

「7、8割くらいかな。今ならたっぷりスキルが使えるわ」

「懸念点が1つ解消……。じゃあもう1つ質問を……朱音、『空間転移』で体の中にいるテンタクルゴブリンだけを移動することはできるか?」

「それは……。ちょっと試してみるわね。『空間転移』。……。……。……。この距離じゃ駄目みたい。対象に直接触れられればそれもできるとは思うんだけど……」

「ということは、あかりたちを動けなくなるようにして、しかもテンタクルゴブリンの一部を引き出してやる必要があると……」

「残念ながらね。ほっとくって訳にはいかないし……殺す――」

「待ってください! 殺すのは……。殺すのだけは!!」


 朱音のその言葉に反応したトモヤ。

 いきなり大声を出すものだから少しびっくりして……。


 ん? 今、あかりたちの口から一瞬だけだったが触手が……。

 

……テンタクルゴブリンは臆病。それに痛みに弱い。

だから殺さない程度にいきなり大きなダメージを与えれば……。


「あのスキルを使うか。……『峰撃ち』――」


 俺は説明もなしに魔力矢を準備。


 驚いた表情のトモヤ。


 仲間すら驚くような攻撃の速さ。

 これであればきっと……。


「……痛いの、怖い。でも……これが国の、ためなら……。こうなってしまったのなら、もう覚悟、しないと。でも、待って……。せ、めてお父様とあかりだけは……。……。全員、私の中へ」


 姫様の声に反応してあかりと先代にとりついていたテンタクルゴブリン、更には地面に倒れた人たちの口から卵のようなものがこぼれ、姫様の口の中へ……。


「不思議……。こうやって、誰かの代わりになる光景を、見たような、気がする……。これも、たぶん異世界の……でもゴブリンじゃなくて、……蟲?」

「蟲、だと……」


 パラサイトワーム。

 おそらくはあの時の、拓海の姿を……姫様は言っている?


 死なない弓。

 それなのに、俺の手はなかなか動こうとしない。

 だって、その光景を見ていたのは俺と……クロだけ。


「……。優しい、んですね。初めて会った、私のために、泣いてくれる、なんて……」

「え?」


 自分の目元を触ると手が湿った。

 気づかない間に涙が溢れてしまったらしい。


「なら、罪悪感を感じないように……。自分で……。私は、誇り高き、女王……人より先の時間を、少しばかり見通すことできる力……『クロノス』を授かり、新しく、異世界風に、『クロ』という名を襲名された者。……ありがとう。飴、凄くおいしかったよ。もっと、飯村さん、いいえ。一也さんと、いっぱい話して、みたかっ――」


 俺の中の疑心が確信に変わった。

 最早躊躇している場合ではない、そう悟った瞬間勝手に俺の手は魔力矢を発射。


 だって、ここで姫様が死ねば……俺と姫様、いや『クロ』との出会いはなくなってしまうのだから。

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