157話
「落ち着いてトモヤ! 慌てていると自分まで飲まれるわよ!」
「でも、だって俺のせいで……」
「回避して回避して……とにかくこうして鬼ごっこしながら攻撃している間は、向こうも余裕がない。あかりを完全に飲み込むことも、倒れてる人たちにこれ以上気概が加わるなんてこともないはずよ。じわりじわり、気が遠くなりそうだけど確実にダメージを与えて」
「くそ。魔力矢をもっと作れればもっと……」
「私だって魔力があれば……」
長時間の戦闘の末、体力は削られ、ついにはトモヤが窮地に。
それを庇ったあかりはテンタクルゴブリンの職種に捕まり、その身体の中に侵入を許してしまった。
大量のテンタクルゴブリンに逃げ道を阻まれたこと、最初に遭遇したテンタクルゴブリンの耐久力から殲滅も可能と判断して、早々に逃げることを諦めてしまったのが間違っていた。
まさか個体ごとにこれほどまで耐久力、魔力量に差があるなんて……。
トモヤにはああ言ったけど、こんな状態から逆転なんてもう不可能。
せめて……せめてあのテンタクルゴブリン、トモヤたち曰く先代の王と呼ばれる姿を模し、他のテンタクルゴブリンたちに指示を送っているあいつさえいなくなれば……。
こっちの攻撃が当たるにくいのも、回避先にテンタクルゴブリンが連携して待ち構えていることがあることも、きっと全部あいつのせい。
まるで未来でも覗かれているみたいで本当に気持ち悪いわ。
まぁ、おそらくは元々持っていたスキルをとりついたテンタクルゴブリンだけが使用できて、他のテンタクルゴブリンはそれを有していない、っていうのは救いだけど。
それと気になったのは他のテンタクルゴブリンはエルフや人間に取り付いて行動していないということ。
これはとりつくと対象のスキルを扱えるという反面、肉体的デバフを受けるからということなのかしら?
エルフと人間を人質にされないって点ではこれも幸い。
「ま、この状況で人質なんて不必要でしょうけど。とにかく、こっそりと逃げ道の確保――」
「き、しゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「え? 嘘、でしょ……」
「は、ははは……ここにきてこの数が追加って……」
ギリギリの状況。
もはや、攻撃に打って出ることさえ難しく、逃走ルートがないか思考を巡らせようとしていると、背後からテンタクルゴブリンの凄まじい叫び声が。
地面を這う触手の音が次第に近くなり、その光景に私もトモヤも絶望で脚が重くなる。
だって、この数は……もうどうしようもない。
「ト、モヤ……。あかり……。なんで、こっちにあなた、たちが……。逃げ、て。逃げてっ!!!!」
「ひ、姫様!!」
「あれが、本人……」
戦闘を走るエルフ。
それは見覚えのある姿。
最後の最後であかりの姫様に会わせるって言葉が現実になるなんて……皮肉としかいいようがな――
「朱音っ!」
「!? この声、飯村君?」
絶望で何故か笑いが零れそうになると、私の耳元に最愛の人の声が響いた。
こんなときに駆けつけてくれるなんて……ちょっと、カッコ良すぎるわよ。
「一気に魔力の回復をする! こっちに、こい!!」
「……うん。うんっ!!」
「魔力消費……100!!」
飯村君のパッシブスキルは距離が遠すぎると発動されない。
だから私は、飯村君が弓を引くその瞬間全力で駆け出し、テンタクルゴブリンたちが魔力へと変換され吸収が始まるよりも速くその胸の中に飛び込んだのだった。