156話
――パンッ!!!!!!!
「爆ぜた。しかも、簡単に……」
「やった。……でも今のがお父様とお母様じゃないとしたら、本物はどこ?」
「待て。いや、待ってください」
両親のことが気が気じゃないのか他のテンタクルゴブリンの側に行こうとする姫様。
俺はそんな姫様の掌を掴み、じっとその顔を見つめた。
「姫様といえど、これ以上勝手な行動をとれば叱ります。両親が大切なのは分かりますが、まずは自分の身を第1優先してください」
「……。そう、ですね。すみません私――」
「分かったらこの飴を舐めて落ち着いてください」
「あ、またもらっちゃっていいんですか?」
「さっき……馬鹿って言ったお詫びです」
「あれ、やっぱりそう言ってたんですね。……私ちゃんと怒られたのなんて初めてで」
「す、すみません! 咄嗟に、その――」
「ふふふっ。なんかその感じ本当にトモヤみたい。でもトモヤより……大分男らしいです」
姫様は握られている自分の手をじっと見つめる。
「あ、えっと、これじゃあ飴舐めれないですよね!すみません!」
「あっ……」
幼さが残る姫様の手を俺は急いで離し、手を掴む時に仕込ませた飴が落ちないようにそっとその手を丸め込ませた。
危ないところだった。
見る人が見れば俺、ただの痴漢だったぞ……。
「それでまずはこの人たちをどうにかしないと、ですかね?」
「え、えっと、そうですね!この中にお父様やお母様もいるかもしれませんし……でもこの数を2人じゃ」
「いえ。大丈夫です。ただちょっと勿体ないなとは思いますが」
「それってどういう――」
「侵入者……。不完全、でも、いい……。あいつらを殺――」
「ぎきゃあああああああああああ!!!!!!!」
作業に忙殺されていたり、待ち時間中1度取り込んだ情報からその姿を変化させ、仲間に相手を任せ俺たちを無視していた、そんなテンタクルゴブリンたちの内の1匹が俺たちに視線を向け、とうとうこの数のテンタクルゴブリン全匹を焚き付けた。
擬態していたテンタクルゴブリンも全て元の姿に戻り、戦闘態勢が整っていない状態であろうとなかろうと、凄まじい勢いで襲ってくる。
人間の記憶を取り戻したというのに、邪魔をしようとする俺たちを殺しにくるその様は、残念ながらモンスター。
「さっきのが魔力消費50。こいつらもそれでいけるか?いや、念のため70で――」
「う、ぐっ! はぁはぁはぁ……。な、なんで、さっきまでは全然大丈夫だったのに……」
「だ、大丈夫ですか? ってもうそこまで来てるか……魔力消費、70――」
「もう、駄目っ! き、しゃぁ……」
魔力矢を生成しようとすると、姫様の口から大量の触手が。
よくよく考えればあの時の叫び声があったということは、姫様の情報を手に入れたテンタクルゴブリンがいて……姫様本人の中にテンタクルゴブリンがいることに気付けたはずなのに……完全に失念していた。
大量のテンタクルゴブリンと姫様にとりついたテンタクルゴブリン。
挟み撃ちにあっているこの状況。
まずは近いところにいる姫様を撃ちたいが……流石にそれはできない。
それにもう間に合わな――
「全員、こっち、にっ! その人間は危ない、から!……。……。……。今のうちに逃げ、て……」
触手な身体を取り込まれると思い、身構えていると、姫様は精一杯自分の内に掬うテンタクルゴブリンを抑制。
他のテンタクルゴブリンたちに命令を下した。
とりついているテンタクルゴブリンが強いのか、それとも姫様のカリスマ性なのか、その命令は有効で襲いかかってきていたテンタクルゴブリンたちは俺を無視しつつ姫様に連れられ奥へ。
「助けられた、か……。……安堵してる場合じゃない。この隙に全員を――」
「あかりいいぃいぃいいいいいいいいいいいいい!!」
攻撃の手段を考えていると、奥からトモヤの声が。
ということは朱音もここにいるのか……。
だったら、この大量の魔力源を朱音に 送るチャンス。
情けない自分に憤りを感じつつも、俺は敢えてテンタクルゴブリンたちを泳がせることにしたのだった。