154話
「トモヤを知っているんですか? ということはトモヤもここに……。あ、あの、トモヤは今どこに? まだ属性弓を使えるようになったばっかりで……も、もしかしていないってことはそういう――」
「生きてます。俺の仲間とあかりも一緒なので取りあえずは安心してください」
トモヤたちとは会っていない。
ということは向こうに姫様はいない、か……。
あの悲鳴が万が一罠だとしたら……少し不安だな。
一旦戻るか? いや、それにしては距離がありすぎる。
「よ、良かったです。あかりもいて、あなたのお仲間さんもいるなら大丈夫そうですね。えっと、改めて……助けて頂きありがとうざいました。私は9代目皇帝の娘であり現女王……みんなからは未だに姫様って呼ばれています。それで……あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
朱音がなんとかしてくれていると信じるしかないか……。
俺は俺で急いで王都まで移動して、できれば王都の人たちと連携して王都にいるゴブリンたちを殲滅。そのままダンジョンの朱音たちを全員で捜索――
「あー! あ、あの、聞こえてますか?」
「え? あ、すみません。少し考えごとをしていて……」
「……。トモヤもですけど、男性って考えごとをするととことん集中してしまうんですね」
「いや、それはどうなんですかね?」
「そのごまかす感じも……。それよりあなたのお名前伺っても良いですか?」
「あ、はい。飯村一也。職業は弓使いで――」
「飯村一也!?」
俺の名前がどうしたというのか、姫様は大声で驚くと今度は恥ずかしそう手を口に当てた。
「ど、どうかしましたか?」
「い、いいえ。その、もしかしてですけどあなたは異世界から?」
また異世界、か……。
訂正する必要もないしもうこれでいいか。
その方がトモヤたちと合流した後ややこしくもならないしな。
「はい。実は――」
「勇者様!あの話は本当だったんだ! あのあの、異世界ってどういうところなんですか?モンスターがいなくて、この世のものとは思えないほど甘くて美味しいものがあるとかも本当ですか?」
「ちょ、ちょっと待て! じゃなくて、待ってください! 勇者様? 俺が? そんな大層な人間じゃないですよ。誰ですかそんなことを言った人は」
「先代が先代にその先代はもっと先代に、代々語り継がれた話だそうです!かくいう私もの異世界の夢を見ることがあってですね! 異世界の遺跡では人間が自由に黒い扉? で遺跡の中を移動していて……あれがこっちでもできたらって毎日思っているんですよ」
「日本……。そうだろうっていうのは確信してたけど、これで確定か」
「因みに日本の由来は何代も前の先代が夢で見たものその異世界の呼び名からとったものだそうです!ということは街の作りも、食べ物も、もしかしてこの国は異世界がルーツになって成り立っていると言ってもおかしくないのかもしれませんね」
「ダンジョンが移動した結果、スキルが出現……未来視? のようなスキルを持った人たちがその力で成り上がった……。そしてその人たちは俺たちが来ることも予知して……俺たちが困らないように言語を日本語にした? 何代も何代もかけて、ここの人たちは俺たちを待って準備してくれていた、のか?」
「あっ! こんな話をしている場合じゃないです! 飯村さん。私が9階層への案内をします。どうか助けてくださ――」
「ど、どうしました?」
話を変えようとすると姫様は胸を両手で押さえ、下を向いた。
呼吸は何故か乱れている。
病気? それとも……。
「私は大丈夫です!何かあっても……。飯村さんが気にすることではありませんよ」
「……大丈夫ならそれでいいんですが――」
――ぐぅぅ
「あっ! お腹が! ……は、はは。ちょっとお腹が空いただけみたいです」
「……。そういえば異世界の甘くて美味しいものがどうのって言ってましたよね。実はちょっとだけお菓子を持ってて……噛まずに舐めるといいですよ」
「これは?」
「飴っていいます。その包装を開くと硬いんですけど甘くて美味しい塊が入ってますよ」
「……。わぁ、宝石みたい。じゃあいただきます!んーっ!美味しい!こんなに甘いくて美味しいもの初めてですよ!」
「それは良かった」
クロもそうだったが、女性は本当に甘いものが好きなんだな。