153話
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。長、いな……」
朱音たちと別れてからしばらく、9階層に続く階段は未だに見あたらない。
道はそこまで複雑ではないし、敵も強くはないのだが、この階層だけ作り方が少し違うような気がする。
突発的にできたダンジョンだからか、取りあえずここだけは長くしよう、といった考えなのだろうか。
敵のゴブリンに関してもここだけ適当に敷き詰めてとにかく侵入者を食い止める、誰かを倒すとかそういった意識をまるで感じない。
というのもボブゴブリンの数は激減、ゴブリンも生まれたばかりのような個体だらけだからだ。
もしかするとここにはこの階層のゴブリンを指揮するような存在すらいないのかもしれない。
「……。ここまで中途半端な状態だと……あとは俺の辿ってきた道が間違っていたってこともあるか」
一応少ないながらもあった分かれ道は全て調べて来たのだが……。
隠し扉とかそんなものでもあったの――
「ごがあああああああ!!」
「は、離して!私は……みんなが折角逃がしてくれたのに!」
呼吸が乱れても脚を止めることなく走り続けていると、前方に大きな影が見えた。
その体格は普通のゴブリンのそれじゃない。
ここに来て俺はようやくゴブリンキングに追いつけたらしい。
しかし、そのことに喜んでいる場合ではない。
ゴブリンキングに襲われる女性の鬼気迫る声、それを発している存在はまだ薄暗くて目視することが難しいが……
「ギリギリセーフであってくれ。魔力消費、80」
ゴブリンキングの頭部をターゲットに設定し、できる限り強力な魔力矢を生成。
そして弓を引くと、パッシブスキルによる強化が発動され魔力矢は光を纏いながら一瞬でゴブリンキングの下へ。
恐らくはスピードが強化されたのだろう、それによるとんでもない轟音に耳がもっていかれそうだ。
ただ、それよりも気になったのはゴブリンキングが背負っていた女性。
見覚えが……ありすぎる。
髪色、声、背丈……全てが異なっているから似ている、だけなのかもしれないが。
それにしても……。
――パン!!
これでもかと威力を高めた魔力矢に、ゴブリンキングの頭は耐えることができず、爆散。
最初からこの威力で撃つことができていれば良かったのだが……ともあれ繁殖の大元はこれで消えた。
こいつから生まれたゴブリンにも強い繁殖機能はあるが、それはゴブリンキングよりも早くない。
それに生まれたゴブリンの成長度合いも違う。
あとの雑魚はゆっくりポチポチ殲滅すればいいだろう。
「それにしても……大分溜め込んでたな」
魔力となって消えていくゴブリンキングの身体。
頭ごと上半身も弾け飛びんだことで中が見え、そこには生む寸前だった小さなゴブリンが数百単位。
なんだかんだで俺たちが追い回すことでこれを生む隙を、余裕をゴブリンキングから奪いより最悪な状況は回避していたらしい。
「ちょっと、疲れたな」
経験値と共に魔力を得る。
それでも1度にあれだけの魔力を使った疲労はなかなか抜けない。
とはいえレベルが上がったからか以前と比べて身体に踏ん張りが効き、ある程度反動は抑えられるようになって楽にはなっているが。
「――あの、ありがとうございます」
「あ……いえ、その、お怪我はありませんか?」
その場に立ち尽くしていると、いつの間にか女性が俺の前で深々とお辞儀をしていた。
気品というかなんというか、自分との違いが大きくて少し慌ててしまう。
「……。あの、どなたかは存じませんが……その強さを見込んで……お願いします。みんなを、私の、私たちの国を助けてください。実は私、そのためにあそこから逃げて地上を目指していたのです」
「私のって……。もしかして、あなたがトモヤたちの言っていた姫、様?」