150話
「朱音さん……。後から絶対追いつくって言ったのに……。心配性、なのね」
「こんな危険なところに慌てた様子のあなたたち2人だけ。そんなの心配するに決まってるでしょ。あなたたちが戦えるのは知ってるけど、その同期?お仲間さんたちはその辺に何人も倒れているのよ」
「それは、確かにそうかもだけど……。あれ?そういえば1人だけなの?」
「飯村君は1人で先に行ったわ。これ以上ゴブリンキングを放っとくわけには行かないでしょ?」
「そう……。まぁあの人なら1人でも心配無さそうだし、私たちにとってもそれは助かるわね。とはいえ……ごめんなさい。一緒に戦って欲しいってお願いしたのに、こんな迷惑掛けて……。冷静に考えると、私何してるのかしら……」
「しょうがないわよ。あの悲鳴、心当たりがあるんでしょ?」
「ええ。最悪なことに。多分あの声は……姫様の声。あの方がゴブリンに襲われたとなれば、国は……」
「だから早く助けに行きたいってわけね。でも……あの声ってこの辺りから聞こえてきたはずよね?」
「そのはずだけど……行き止まりで……」
飯村君と別れて2人を追って来たけど、道の先にはただ壁があっただけ。
でもそのお陰であかりは若干冷静さを取り戻したのか、謝罪を述べられるほどになった。
結果2人を追いかけてきたのは無駄に終わったわけだけど、何もないならそれに越したことは――
「あっ! ここ! ここだけ材質が違う!」
肩を落とすあかりに声を掛けようとすると、ずっと行き止まりの壁を調べていたトモヤが声をあげた。
そして私たちはその言葉を確かめるべく、トモヤの触っていた壁に手を添えた。
「確かに違うわね。岩じゃなくて、泥、というか粘土?に近いかしら。とにかく、異様に柔らかい」
「薄暗くて分かりにくかったけど、よく見れば色も違うわ。トモヤ、あんたこれお手柄かもしれないわよ!」
「あ、あの、あかり、誉めてくれるのは有り難いんだけどさ、背中をバンバン叩くのは止め――」
「きゃあああぁぁああぁあ!」
違和感のあるこの壁の向こうからまた悲鳴が……。
間違いなくこの先に人がいる。
ただ……。
「姫様! 今助けに行きます! こんな壁、こうすれば……よし!」
「ちょっとトモヤ待って!」
「……なんにせよ行ってみるしかないわよね」
何かに誘われているような気がしてならない。
だけど、本当に姫様が捕まっているなら……進む2人を私は止められない。
それでも念のため、後ろにだけは注意を向けて――
「本当に、姫様……」
「しかもあのゴブリン、姫様の身体をあんな風にベタベタ触って……。おいあかり! ボサッとしてないで魔力矢で攻撃するぞ!」
「分かってるわよ!」
崩れた壁の向こうには、銀髪で小柄な女性。
随分と見たことがある顔だけど……流石に髪の色も身長も違いすぎる。
他人の空似ってやつね。
……。それより、わざわざこんな場所に姫様を連れ込んでいるのに、まだ交尾を行おうとしていないことに違和感がある。
やけに壁が簡単に崩れたのもおかしいし……。
でもだからってこの状況で私だけ助けに向かわない理由はないのよね。
まずはそこら辺の石を転移対象にして、姫様が万が一人質になった場合でも、不意を突いて助けられるように――
――シュル。
「これ……。2人とも! 残念だけど一旦――」
石を拾おうとした瞬間、テンタクルゴブリンの触手が手に触れた。
よく見れば地面の数ヵ所からその触手は伸び、そこら中にテンタクルゴブリンがいることが分かる。
流石にまずいと思い、急いで後退を呼び掛けようとしたけど、空いていたはず壁にはテンタクルゴブリンの触手がびっしりと敷き詰められ、退路は塞がれてしまっていた。
「壁を爆発して逃げる……。でも、これが罠だとすれば私たちが逃げることも考えて……。……。この足音……。金色のゴブリンが押し掛けている可能性もあるわね……。下手にそれを一気に招き入れることになるよりかは……まずこいつらを殲滅させた方がいいかもしれないわね」