149話
「異世界……。それとはちょっと違――」
「いえ、それも間違ってないんじゃないかしら? だってこことは別の世界だし、きっと2人が私たちの世界を見たらそういう風に思うわ」
「まぁ確かにそうかもな」
「……。じゃあ2人異世界人ってわけね! へぇ、へぇえ!」
「な、なんだ? いきなり」
あかりは俺たちの答えを聞くと嬉しそうに俺たちの顔をじろじろと見つめた。
「あかりはファンタジー系の本が好きだからそういうのが嬉しいんですよ。……まぁ俺も2人の言葉には驚いて、ちょっと興奮してなくはないんですけど」
「とにかく私たちがなんであろうとも、やることは変わらないわ。進みましょう。……『空間爆発』」
朱音は緊張感に欠けた2人にそう言うと、正面に見えたゴブリンをスキルで爆破。
戦闘に対する戸惑いを感じなくなってくれたのは良かったが、勢いに乗って魔力を使うのはやっぱり良くない。
「朱音、その魔力は……」
「あ、ごめんなさい」
「別に謝る必要は……。戦えるって分かったのは俺としても良かったから。……それとその、ちょっと安心した。やっぱり朱音がカッコよく戦っているのが似合うな」
「……。ありがとう。って、そろそろ先に行かないと! ホブゴブリンが人間のスキルを持っているならこうしている間にも面倒な罠を仕掛けられている可能性があるわ!」
「そ、そうだな」
俺と朱音のやり取りに何故かニヤニヤとした表情を浮かべるあかり。
俺はそんなあかりの考えが何となく分かり、とにかく先を急ぐためまた駆けだした。
◇
そうしてダンジョン1階層から移動を始めてから3時間ほど。
俺たちは階段を7つの下り階段を降り、現在8階層。
一本道だけだったダンジョンには分かれ道も増え、複雑化していた。
「――う、あ……。た、助け……」
「嫌、だ。し、死にたく、ない……」
そんなダンジョン8階層では、村、それに1階層のときよりも人間の数が増え、その中にはまだ自我が残っている人も現れ始めていた。
とはいえ、それを助ける術も分からず、俺たちは目を背けながらまずは先に進むこと、これが大事だと信じて進む。
時には人間の要望通り、殺してあげることもあり……なんとかしてあげたいというよりも早くこのダンジョンから出たいという欲求の方が高まっているようにも感じる。
それでも俺は問題なく進めるのだが、トモヤとあかりはダンジョンの中の様子の変化によって次第にその足が重くなっていて……。
「みらい、まさや、たかや……。姫の護衛の連中まで……。うっ、う……」
「トモヤ! 見ちゃ駄目! 見ると、足が止まらなくなりそうになるから!」
「くっ! この階層の階段はまだなのかしら!」
「落ち着け朱音。あとたった2階層……のはずだ」
泣き出すトモヤとそれを泣きそうな顔で励ますあかり、その2人の姿に苛立ちを感じる朱音。
1階層での余裕が嘘のようになくなり、もう限界といった雰囲気が漂い始めている。
最悪な空気。
まさかとは思うが、ゴブリンたちが、ホブゴブリンやテンタクルゴブリンが人間を死なないように調整し、これを狙っていたとかはないよな?
「――きゃああああああああああああああああああ!!」
そんなことを思っていると、今度は唐突に人間の叫び声が。
女性の声。かなり若いが……まさか子供までこの対象になっているのか?
「もしかして今の声って……」
「あかり! こっちから声が! まだ。今ならまだ助かるかもしれない!」
「そうね! ごめんなさい! 私たちは後から絶対追っていくから!」
「ちょ、ちょっと! 飯村君どうする?」
「……朱音はどうしたい?」
「2人が心配だからそっちに、行きたい。でも、そんなことしていたらゴブリンキングが……」
「朱音がいればホブゴブリンは問題ないと分かった。それにダメージを与えられなくても、今の魔力量の朱音でも危険な状況を抜け出すことは可能……だよな?」
「うん。ごめんなさい。私、わがまま言って。なんというか、あの2人って放っておけないのよ」
「それは俺もなんとなく……。とにかく、朱音がそっちに向かってくれるのなら安心だ。だから俺は先にゴブリンキングの討伐に」
「私は2人のサポートに。……飯村君、気を付けてね」
「ああ。朱音もな」
朱音はトモヤたちを追い女性の声のする方へ。
そして俺はそれとはまた別の、ゴブリンひしめく道を進むのだった。