146話
「村長が、モンスター?」
「戸惑ってないで! 無理なら一歩下がって!」
「う、うう……うあああああああ!!」
トモヤはその瞳に涙を浮かべながらも、魔力矢を生成させて狂ったように弓を引いた。
それに続いてあかりも魔力矢を発射。
村長の口から飛び出してきたゴブリンはすぐさまその身体に戻ったが、それでも2人の攻撃は止まらず、遂にテンタクルゴブリンは村長の身体と共に地面に落ちた。
「く、ぐぐぁ……。この程度しか時間を稼げなかった、か。あとはゴブリンキングと……他の奴らに任せるしかない……。頼んだぞ……俺たちは、あの時の姿に戻って今度こそ、次は自分たちで……。急げ、急いで王都に……」
「遺言はそれだけかしら? なら――」
「俺に止めを刺させてもらってもいいか? こいつからは魔力を多くもらえそうなんだ」
「魔力をもらう? まぁ私は良いけど」
「俺も。その、2人が万全の状態の方がこいつらを殲滅させられる可能性が高いから」
「助かる」
2人に止めを刺す権利をもらうと、俺はすかさず魔力矢を発射。
やはり得られる魔力はかなり多い様で、朱音の顔色はさらに良くなっていく。
「それにしても逃がすって……ここ家の中なんだけど、どういうことなのかしらね? 村長の家って裏口とかあった?」
「ない。話の感じからして、なにかあった時ようの逃げる道を作っていたか、それとも……王都に続く道をここから作っているか。だとすればまだまだ道は長い。ちょっと魔力使い過ぎたな、俺たち」
「魔力は確かに使い過ぎたかもだけど……。で、でもこの村がゴブリンに占領された、というか私たちが村が壊滅したって確認できたのが1か月前。この短期間で王都までの道を作るなんて不可能よ」
「それもこの先に進めば分かるんじゃないか? 2人は疲れているだろうし、今度は俺を先頭にみんなついて来てくれ。今のモンスターテンタクルゴブリンの言い方からして、ここから先大量のゴブリン、いやホブゴブリン以上がいるはずだ。最悪の場合ノスタルジアの木、魔力矢、正確には属性弓を用いた魔力矢以外が効かない装備を身に着けている個体がいる可能性がある。気を付けてくれ。朱音は魔力の温存が第一だけど、2人が危険な状況の際は、頼む」
「分かってるわ。ここまでに得た魔力もあるし、それくらいなら問題ないはずよ」
俺は魔力を使い過ぎたというトモヤとあかりに負担を掛けないために先頭に立ち進むことにした。
精神的にもダメージは追っているだろうし、俺の足が2人よりも遅いとはいえ、ここはその役目を背負うべきだよな。
「確かテンタクルゴブリンが出てきたのがそっちで……。逃げ道等々を意識させたくないのであれば、それとは別の部屋の方が怪しい。なら、一番奥のあの部屋が怪しいな」
「私もそっちだと思う」
「さっきみたいに待ち構えている可能性もあるから……魔力消費、10」
姿を捉えておらずターゲット設定はできないが、取り敢えず俺は一番奥に見える部屋の扉に魔力矢を発射。
すると、扉から大量の血がはじけるように溢れ、破裂する音が絶え間なく続いた。
きっと一番大事な道を大量のゴブリンに塞がせていたのだろう。
ということは、やはり俺たちの予想は間違っていなかったらしい。
「なんか、何度も見て感覚がおかしくなってきてるけど……やっぱりその魔力矢の威力おかしすぎるわよ」
「俺も、今のはちょっとびっくりした」
「この威力でもノスタルジアの木という素材から作った装備だと防がれるから気を付けてくれ」
「……にわかには信じられないわね。一体どんな木なのそれ」
「もしかして、言い伝えにあった記憶を吸い取る木ってやつじゃないかな? なんでも昔遺跡の攻略がもう少しってところまで行ったときに焼き払ったらしいけど」
「……ノスタルジアの木を焼き払った。ということはそれで、人間の時の記憶が蘇って、それでいっそう人間になりたい欲が……」
「それに記憶が戻って佐藤みなみに対して恨みを持つものとかが現れても……不思議じゃないわね」
「……。とにかく急ごう」
俺は朱音と顔を合わせると、不吉な予感に冷や汗をかきつつ、それでも足を進めた。
そして、奥の部屋に入ると真っ先に俺たちの目に映ったのは1つの階段。
これ、この仕様は俺たちがよく目にするあれにしか見えない。
「これってダンジョンの入口、よね?」
「ああ。……そういえばテンタクルゴブリンはナーガの中にいたこともあったか……。もしかすると、それが影響して、テンタクルゴブリンにも統率モンスター、というより大罪モンスター同様ダンジョンの一部階層を牛耳る、自由にできる権利が生まれて……」
「その部分だけ、短いダンジョンを作れた……ってこと?」
「あくまで可能性として、な」
「遺跡の最下層には対象を外に追い出して、どこかに飛ばす効果があったわよね? 普通の時はその最下層への出入りが簡単になってはいけないってことがあるから、その効果も一方通行でしかなかったんだと思うけど、今回に関してはそうじゃない。だから、王都の人たちがここに……」
「きっとそういうことなんだろうな。……。おそらく10階層までの探索、駆け抜けるぞ!」
俺は顔を強張らせるトモヤとあかりを見ると、全力で階段を下った。