145話
「ききぃっ!!」
「早速か!」
家の扉を開けると、中にいたゴブリンたちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
大体こうなることは予想していたトモヤとあかりは俺よりも早く弓を引き、俺もその後に矢を放った。
純粋な反射神経はやはり2人の方が早いようだ。
襲ってきた正面2匹は2人の矢が会心を発動させ、一撃。
俺の放った矢は少し奥のゴブリンに当たり、衝撃波で他のゴブリンたちも弾けて散った。
2人の魔力矢でも問題なく倒せるということは、金色の個体であってもゴブリンは痛みに相当弱いようだ。
ゴブリンキングの耐久力が高いがあっさりと逃げて行った様子、あれも元々のゴブリンのこういった体質が影響しているのだろう。
「……。ここも同じような感じね。それにしても……。ゴブリンキングがいるのにホブゴブリンはまだいないのかしら?」
「それは俺も不思議に思っていた。佐藤さんのダンジョンにいたあいつらはこっちに運ばれていないのか? もしそうであっても、長年人間になりたい願望があって、しかもこれだけ人間を取り込める状況なら、ここに複数いておかしくはないはずなんだが……」
「――おお! その顔はトモヤとあかりじゃないか! それに後ろの方々は……そうかそうか! この村を救いに助っ人を呼んでくれたんだな!」
「村長? 死んで、なかった?」
「……。こんなのあからさまにおかしいわ。トモヤ、不用意に近づいちゃだめよ」
ホブゴブリンの存在がないことに違和感を感じていると、奥の部屋から1人の老人が姿を見せた。
トモヤたちの反応を見るに、その姿はこの村の村長で間違いないらしいが……。
「いや、私はこの村の長として利用価値があると判断されて……この家の中に監禁されていたんだ! さっきゴブリンキングが慌てた様子でこの家に戻ってきて……ストレスで暴れ回った隙に拘束を解いて……。あの部屋で逃げるタイミングを窺っていたのだよ。そうしたら大きな音と共に邪魔なゴブリンたちの声が一斉に消えて……。ふぁ、もうだめかと思ったぞ」
「あかり、なんか村長、それっぽいこと言ってるけど……」
「スキルで死体を操ってるとかってこともあるわ。油断しないで」
「そんなことあるはずがないだろ! ほら証拠として……血は流れる。それに腐臭はないだろ?」
村長は自分が正常であることを証明するために、歯で指の先だけを噛み切ると、流れ出るその血を俺たちに見せた。
「本当に、村長なんですか?」
「だからそう言っているだろうトモヤ。まったく泣き虫なのは変わっていないみたいだな。そうだ、お前が王都からこの村に派遣されてきたとき、姫様に嫌われたと勘違いして落ちこんでいたときがあっただろ? あの時に作った特製スープ、あの材料くらいならまだ残っているはずだから作ってやろう」
「そのことを知ってるって……あかり、やっぱり村長は村長だよ!」
「あ、ちょ、待ちなさいよ!」
トモヤは嬉しそうな顔を見せると、ゆっくり村長に近づく。
そして、村長と熱い抱擁を交わそうしたその時だった。
――シュル。
「え?」
「トモヤ!!」
村長の口から勢いよく触手が飛び出したのだ。
トモヤはあかりの声でそれをなんとか回避。
九死に一生を得た。
「くそ! こいつさえ、取り込んでしまえばいい人質に……ゴブリンキングを逃がす時間を稼げると思ったんだけどな」
「飯村君、こいつって……」
「ああ。噂をすればってやつだな。……テンタクルゴブリン。おそらくだが、ホブゴブリンがさらに人間らしくなろうと人間を取り込んだ末、この姿になった。ということは、他にも同じのがいると考えても……おかしくはない」