144話
俺の心配とは裏腹に、神妙な面持ち見せた2人は次に俺たちへ視線を向けた。
どうやらもう気持ちの切り替えは完了しているらしい。
「他国から来た人たちにこんなこと頼むのも申し訳ないんだけど、王都が、私たちの住む場所が危険な状態みたいなの。……。なんとなくゴブリンキングの討伐を任せちゃっているのも悪いとは思っているんだけど……。もう1つ、仕事を任せても、いい?」
「お2人がいれば百人力です! お願いします! 報酬も俺たち2人から姫様に多く出してもらえるよう頼み倒しますから」
「……。乗りかかった船。勿論協力はするわよ。ね、飯村君」
「ああ」
今後の子の世界線のことも考えると、まぁ頼まれなくても協力はする予定だったが、毎回朱音が先に返事してると、俺が尻に敷かれてるみたいに映らないか心配だな。
「そうと決まれば、とにかくここは無視してゴブリンキングを追うわよ! あいつ、どこに行ったか分かる? なんかもう外にはいないわよね」
「ゴブリンキングは向こうの方に走って行って……」
「多分村長の家を拠点にしているんじゃないかしら? あそこはこの村でもとびきり大きいし、入口から一番離れていて他のモンスターや人間に襲われる可能性も低いから」
「村長……。もしかしたら、同じように……」
「トモヤ、一旦考えるのは止めましょう。さ、目的地まで私が先導するからついてきて」
村の中、動かなくなったゴブリンや人間を横目に俺たちは村長の家に急ぐ。
道中子供のゴブリンと放心しているゴブリンだけは魔力矢で処理し、少しでも魔力の回復、とりわけ朱音が回復できるように行動をしていく。
そんな中、朱音はあることに気づいたのか、走りながら口を開いた。
「それにしても子供のゴブリン、あれ、放心している人間とゴブリンを食ってるわよね? 一応繁殖するために必要な精力を溜めるため、成長するためにはできるだけ新鮮な肉が必要ってことなのかしら?」
「あるいはスキルの条件の1つにそれらしいものがあるか……。だが人間を食うのはさっきも言った通りゴブリンの習性って可能性、ないしはモンスターって大きな枠組みにある習性の1つなのかもしれない。……。思えばなんでダンジョンのモンスターは積極的に人間を狙って、攻撃を……。自分のテリトリー、住処を侵されないためってだけじゃ説明がつかな――」
「? どうしたの飯村君。いきなり黙って」
「いや、そのあくまで推測でしかないんだが……。モンスターは常に人間を取り込んで……人間の姿を求めているんじゃないか?」
「モンスターが人間になりたいって思ってるってこと?」
「ああ。元々人間のモンスターは勿論、それから生まれてきた存在、それにダンジョンの仕組みとしてその意思を反映させているのだとすればありうる話だ。それに……さっきのゴブリンは人間らしい顔つきだったろ?」
「そういえば……。だとすると、ああして繁殖に積極的だったのは、スキルだけじゃなく少しでも自分の子孫に人間の血を含ませようと……」
「それで、ホブゴブリンのような上位種がダンジョンに湧くようになった可能性もある。探せばこっちでの行動が、現代のダンジョンにどういう影響を与えたのか、そんなことがわかるかもしれない……」
「逆に言えば現代のダンジョンから推測して、何をどうすればどんなモンスターが生まれるかも分かる……。だとすれば、繁殖能力の高さ、というか、人と密に関わろうとすることで生まれるモンスターもいると仮定して……最悪なのはあのゴブリン、よね」
「ああ。50階層のボス、テンタクルゴブリ――」
「着いたわ! みんな攻撃の準備を!」
俺がモンスターの名を口にしようとすると、あかりが戦闘準備の合図を出し、俺たちは村長の家に侵入を開始するのだった。