142話
「ゴブリンの王……。で、でもあれって俺には増やすより減らしてくれてるように見えるんですけど……」
「共食いをすることでその個体が今まで経験してきた情報、それに覚えたスキルや体質の情報を取得。新しくそれらの情報を元に強化された個体、更にはゴブリンキング本来の力である高い繁殖能力が反映された個体を生み出すことができる。その発動周期は確か1週間くらいで、結構長かったはずだけど……。とにかく、厄介なのが生まれる前に素早く処理。実際過去にスタンピードが起きたなんて事例はないし、危惧してる理由もあくまでそういう可能性があるからって程度だけど……これは探索者なら絶対の使命、と言っても過言じゃないと思うのよね」
「まぁここはダンジョンじゃないから一応スタンピードが起こる可能性は0なんだけどな。まぁなんにせよ、ダンジョンの異変が拡大してしまったこの状況と、通常のゴブリンとは違う金色の個体の補食っていうのが、面倒なことを呼び寄せかねない気がするのは確かだ。さっさとあいつを殺して中の奴らも殲滅させてやる。魔力消費、10」
俺はゴブリンキングがまだこちらに気づいていないうちに弓を引いた。
ゴブリンキングという大層な名前ではあるが、所詮はゴブリン。
ボブゴブリンよりは強いのだろうが、結局当たってしまえばいつものように――
「ぎがああああああ!!」
会心のエフェクトは間違いなく発動した。
それなのに、ゴブリンキングに矢が当たった部分は瞬間火力の高さから肉を多少えぐった程度。
魔力消費10といえど……矢が刺さり、そこに残ったのなんて久しぶりだ。
「飯村君の魔力矢を受けて死なないなんて……。こんなのこっちの人だったら会心を出せたところでじゃない」
「いやいやいやいや、確かに確定で会心は凄いですけど俺たちの魔力矢の威力をなめてもらっちゃあ困りますよ。流石に国で1番の弓使いが会心を出す、或いは一斉にかかれば――」
「私の魔力矢、間違いなく会心だったんだけど……。ここまで魔力矢に差が……。ううん、それよりも驚くのは敵。こんな村にいていい強さじゃないわ」
「もしかしてだけど……遺跡にいる氷のモンスターより強いとか、ないよね?」
タフなゴブリンキングに焦りを見せる朱音と、その言葉を否定するトモヤ。
そんな2人のやりとりを横目に、あかりは魔力矢を放ったのだが、その矢は会心のエフェクトを見せたかと思えば一瞬で消滅。
しかもゴブリンキングは攻撃が当たったということに気づかなかったのか、俺の魔力矢を引き抜こうとする姿勢をいっこうに崩さなかった。
この反応からして、防御力が高いのはもちろんのこと、他にも防御スキルが関係しているような気はするが……それが分かったからといって、対策できるスキルなんて持っていない。
魔力の消費量は多くなってしまうが、属性弓で焼いてみるか?
「――ぎ、がぁぁああぁあ……」
「逃げた、のか?」
「飯村君! ゴブリンがこっちに!」
ゴブリンキングに腕を喰われたゴブリンと、他数匹が俺たちの下まで駆け出してきた。
しかし、ゴブリンたちの顔からは闘争心は見えず、俺は興味本位でそれを見逃そうとする。
すると、それを察したのかゴブリンたちはむしろ感謝でもするかのように会釈をしながら走り去っていった。
人間らしい態度、それにボブゴブリンまで進化していないはずなのに顔つきがどこか人間らしくもあり……。
「原因は……入ってみればわかる、のか?」
「飯村君、大丈夫? もしかして魔力を吸われたとか?」
「大丈夫、ちょっと考えごとをしてただけで……。それよりあいつが回復する前に急いで追わないとだな」
「よし! あれが相手じゃなければ俺もあかりも戦力になるはずです! やってやりましょう!」
「なんか恥ずかしい……。でも、間違ってないからツッコめないのがイライラする。ストレス解消、私も頑張らせてもらうわ」