140話
「あれ……私? なわけないわよね、だってここは……」
「ともかく、あれに向けて……」
その姿に驚きながらも俺は弓を引いた。
放たれた矢は金色のモンスターに当たり、いつものように爆散。
俺たちは大量の魔力を使って放たれた矢の反動と、その爆風を受け落下速度を著しく低下。
それでも俺は、高さからしてまだ危険なことに変わりないと判断して第2射を放つ。
2発、しかも威力の高い矢を放ったことで、辺りにいた殆どのモンスターは絶命。
さっきまで叫び声を上げていた女性は恐怖心よりも驚きが勝ったのだろう、声を出すどころかあり得ないといった表情でその場に座り込んだ。
「――うっ!」
「きゃっ!」
「おわあ!」
そんな女性の近くに俺たちは仲良く着地。
朱音の豊満な胸に顔が埋もれ……こ、呼吸が。
「い、飯村君。その、嫌ってわけじゃないけど、ほらみんな見てるし、恥ずかしいから……」
「す、すまん。ただ、その、わざとじゃないから、変な言い方はやめてくれ――」
「トモヤが、空から降ってきた……。それに、あなたたち、人間?人間がダンジョンなんて危険すぎるわ……。しかもその格好……他国の人間がもしダンジョンで亡くなったらその罪が私たちの国に擦り付けられかねないわよ。そもそもこっちでは私たちエルフですら――」
「エルフですら立ち入ることが出来る者は限られている。……。それが分かっていてどうしてこんな危険なところまで来たんだ、あかり」
「それは、トモヤのことが心配で……。じゃなくて、あんたが属性弓覚えて慌てて出て行ったって、姫様から聞いたのよ!いくらなんでも準備もろくにしてない状態で、しかも1人で、だなんて……そんなの自殺しに行くのも同然よ」
「う゛っ! そ、それは……な、なんか行ける気がして……。ほ、ほら、あかりだって早く村からモンスターがいなくなってくれればって言ってただろ?」
「だからってトモヤ1人で行かせようなんて思うわけないでしょ。はぁ、昔から考えなしで無鉄砲なんだから……」
「ま、まぁもう済んだことなんだから喧嘩はやめましょ、ね?」
「……。そうね。それで、この攻撃はあなたたちよね?さっきはちょっときつく言っちゃったけど、きっとあなたたちがいなければトモヤは助かっていなかった。それどころかこの国、は分からないけど、近くの村も助かった。どこの国の人なのかは分からないけど感謝するわ」
「いえ、俺たちは成り行きで――」
「感謝は言葉だけじゃ足りないわ。寝床と食糧、それに飲み水。これくらいは最低限用意してくれないと」
「……。その顔を見てちょっと嫌な予感がしたのだけど……。どうやら的中みたいね。似た者同士仲良くできそう」
「それは了解したってことでいいのかしら?」
「私からお願いしてみるけど、最終的に姫様が決めることになるから断言はできない。でも姫様は人間だからって差別するようなエルフではないから安心して」
「そうです。むしろ喜んで――」
「反対にトモヤはこっぴどく叱られるでしょうね」
あかりが食い気味に言葉を遮ると、トモヤは完全に沈黙。
正直なところその姫様に会うということが安全かどうか、トモヤが頼りになるのかどうか、心配な点が多かったが……これは頼もしい仲間?が増えたもんだ。
「そうだ。姫様の元に向かう前に自己紹介させてもらうわね。私はあかり。もう知ってるかもだけど、そっちのがトモヤ。それで……改めて、ありがとう」
「こっちこそ無理を言っ――」
「いいのよそんなに頭を下げなくても。当たり前のことをしただけだもの。ね、飯村君」
「あ、ああ」
「それで自己紹介だったわよね。こっちは飯村一也、君で私は姫川朱音。よろしくね、あかりさん」
「……。長い名前、見覚えのない服装、あり得ないほどの攻撃力……。まさか、ね」
「なに?何かおかしかった?」
「いいえ。ただやっぱり姫様、というかその一族って特別なのかなって……。だとすれば……。姫様の元まで絶対あなたたちを送り届けるから」