138話
「この管、昔はこんな色じゃなかったらしいんですけどいつの間にか人の一部が引っ付いてこうなったみたいです。人の一部といってもちょっと普通じゃありませんが……。とにかく、管が伸びて壁の中に刺さっているのが私が分かると思うんですが、これが外にいるモンスターの発生源。湧き潰しをするというのはこれを殺すということになります」
「昔はこの色じゃなかった、ですか。もしかするとモンスターの色とか性質もこれによって変わった、とかありますか?」
「はい。祖父に聞いたところ金色のモンスターなんて昔はいなくて、村にモンスターが出ても今ほど苦労はしなかったらしいです。幸い遺跡のモンスターはこの影響を受けずに済んでいて、今回はなんとかここまで到達。ただ遺跡のモンスターは外のモンスターよりも知能が高い上に、多くの魔法や性質を持っていて……危なく俺も殺されるところでした」
金色の管に金色のモンスター。
しかもこのナーガの頭が引っ付いている人間の身体は半身が若干とろみを帯びているようにも見え、まるでスライムのような特徴を持ち合わせている。
この身体はやはり、ヒューマノイド化していた佐藤さんのものなのだろうか。
だとすればなぜ?
佐藤さんはコキュートスによって凍っていたんじゃなかったのか?
俺たちが訪れたこの時代よりも前に、佐藤さんたちが想定していなかった事案が発生したということなのだろうか?
「では早速これの排除に取りかかりますね」
「金色の管ってかなり硬いわよ。あなた、これにダメージ与えられるの?」
「……。初めて見たときから似ているなって思っていたけど……なんとなくその雰囲気も……」
「どうしたの?私の顔に何かついてた?」
「いいえ!そうじゃないです!そ、それより、え、えっとダメージをどう与えるかですよね?それがちょっと地道な作業になって……残り魔力からして時間も掛かってしまうんですけど……。硬い相手にもダメージの与えられる攻撃、さっきそちらの方も偶然発動していた、会心の一撃を狙います。まずは魔力消費、3」
トモヤは再び魔力矢を生み出して会心狙いで弓を引き始めた。
同じ弓使いというだけでなく、まさか会心に依存した倒し方をとるとは……。
「――会心狙いなんて驚いたけど……。飯村君のスキルに比べて威力は低いし、確定って訳じゃないみたいね」
「多分簡単に倒せるモンスターがいなくてレベルが低いんだと思う。あと確定じゃなくても10回に1回位なら普通とんでもない確率じゃないか」
「確かにね。でもこれじゃああれを倒せるのがいつになるか……。そろそろ助けてあげ、って丁度いいタイミングね」
俺たちはしばらくトモヤがスキルを発動させる様子を観察。
しかし流石に辛抱できなくなったのか、朱音がトモヤを助けるよう促してくると、トモヤもそれを見計らったかのように膝に手を当て動きを止めた。
「――はぁはぁはぁ……。またちょっと休憩しないと。確か、そろそろ魔力が切れる」
「そろそろ……。魔力の量はステータス画面から確認すればいいんじゃない?」
「ステータス画面……。もしかしてあなた方は自分で自分の情報を現せるのですか!?」
「ま、まぁそうだけど……。普通はそうじゃないの?」
「それができるのは姫様だけですよ!」
ダンジョンのリセット……。もしかすると転移前の佐藤さんが行っていたあれによって、今時点だとステータスの表示もアナウンスもなくなったのかもしれない。
それでもトモヤたちがスキルや魔法を取得できるのは、きっと俺たちがダンジョン以外でもそれらを行使できるようになったのと同じで、ダンジョンから地上に漏れた魔力が影響しているのだろう。
ともあれ……姫様だけがステータスを見れる、か。
きっと他にもサポート系のスキルが豊富で、のしあがった人なんだろう。
「まさか、それができる人たちとは……。これは凄い人に出会ったかも――」
「別にそれは凄いことじゃないわ。凄いって言うのは……例えば100パーセント会心が出せるとか、そういう人よ」
朱音がウィンクで合図を送ってきた。
そんな合図を貰わなくてもそろそろやってやろうとは思っていたんだけどな。
「魔力消費、1」
弓を引きモンスターの発生源を撃ち抜いた。
派手に弾けたその肉片が大量の魔力と変わりじんわりと身体が熱くなる。
そんな心地よさに少しばかり浸りたいところだが――
「ま、また会心!?し、信じられない!まさか本当に確定で会心が出せる弓使いがいるなんて……」
「ふっふっふ!凄いでしょ!私の幼馴染みなのよ飯村君は」
「朱音、ほの自慢の仕方ははしたなくな――」
―グ、ゴゴゴゴゴゴ……ゴッ!!
「な、何よこれ?」
「そうだ、あれを倒すとこうなるんだった……」
騒がしい雰囲気が辺りに漂い始めると、今度はダンジョン……遺跡が地響きと共に姿を変え始め、俺たちの正面には大きなワープゲートが現れたのだった。