136話
「がぁっ!」
「くっ。外した……。余力を考えると無理出来ないけど……魔力消費、5」
トモヤの放った魔力矢は追尾機能なし、会心もなし。
スキルによって矢を生み出すことができるという点では昔の俺よりかはマシな気はするものの、どうしても物足りなさを感じてしまう。
だが当の本人はそんな悲観を一切見せず、新たに放った5本の矢の内、3本を見事に命中させてモンスターを絶命させた。
スキルに頼った俺と比べると、素の弓使いとしての技量は上であることは間違いない。
「お見事でした」
「いえいえ、私なんかまだまだです。属性弓が扱えるまでになったからといって完全に調子に乗って……。早々にこの遺跡を攻略して、少しでも姫様の負担を軽減できればと思ったのですが」
「そうですか……。……。それで姫様、というのは?」
「え? ……ご存じ、ないのですか?」
信じられないといった表情。
姫様というのはこの時代の天皇のような人なのだろうか?
時を遡ってきたことを安易に伝えるのは躊躇われるし、ここは適当に嘘をついておくか。
「その、この国には来たばかりで……。それに故郷は情報が届かない田舎にあってですね――」
「なるほど……。ということはたまたまこの国に立ち寄られて、正義感から遺跡を攻略しようと……。まさかこんなご時世に絵に描いたような正義の味方が現れるなんて……。その、出会ってばかりではありますが、ここを攻略した際は姫様にお会いしてくださいませんか?きっとあなたのような、人間が存在するということを知れただけで、姫様の気持ちも軽くなるはずです」
「それは……」
この時代のダンジョン、そして世界のことを知るためとはいえ、あまり多くの人と会話をするのは危険か?
だが、そもそもダンジョンを出た後俺たちが休める場所があるのかと聞かれれば……。
好意的に受け入れてそういった場所を提供してくれるのなら……トモヤの誘いに乗った方がいいかもしれないな。
ただそれも1度朱音に報告しないと……。
「あの……。駄目、ですか?」
「いや、駄目というか何というか相方に相談しないとなんとも……」
「あっ。1人ではなかったんですね」
「はい。少し魔力不足で体調を崩してまして、今はモンスターの出現があまりいない場所で休ませているんです」
「モンスターのあまりいない場所ですか。……。待ってください。そこってもしかしたら……」
血相の変わるトモヤ。
ここはどう見てもボスのいる階層ではないだろうし、今までの経験上その階層の一部だけで特定のモンスターが発生することはないはず。
であれば他に何か困ることでもあるのだろうか?
「ふふ……。見つけた。やっとここの遺跡を、湧き場所を潰すことができる。いや、喜んでる場合じゃない。怪我だってしているし、それにあれはかなりの強敵。しかも……。……。……。あの、その、お仲間のいる場所は非常に強力なモンスターの現れる場所で……。とにかく急がないとまずいことになります!すみませんが案内をお願いします!」
「構いませんけど……それで走れますか?」
「なに、このくらいは大丈夫です。戦いはちょっと頼ってしまうかもしれませ――」
「掴まっててください。距離はそこまで離れていないので全力で行きますよ」
「は、はい!」
そうして俺は俺なんかよりもよっぽど正義感のありそうなこの時代の人間、トモヤを背負って急いで朱音のもとへ向かった、のだが……。
「――はぁはぁ、見え、た。ってこの暖かみは……」
「あ、戻ってきた。ちょうどこいつが罠にかかって……なんとか動けるくらいには魔力を吸収できたみたい」
トモヤの心配なんてなんのその。
消えかけたモンスターと顔色の良くなった朱音が俺たちを出迎えてくれたのだった。