131話 クロ視点
「――はぁはぁはぁ、んっ! ワ、ワープゲート」
「ちょこまかと……。でもそうやって煽れば煽るほど私は強くなる。スキル【憤怒】と私の氷は一見相性が悪いようですが、その相乗効果は絶大。ほら、今度の『氷獅子』は砕けないはずですよ」
ワープゲートを使って攻撃を回避しながら、カウンターを狙うけどコキュートスの周りは氷の獅子が守っていてなかなか打って出れない。
それにワープ後の隙を狙って襲ってくる『氷獅子』は最初に現れたものと比べて硬さが桁違い。
そもそもしばらくしてなんとか元に戻ったけど、やっぱり『氷獅子』に触れる度に頭痛が起きて、記憶が、自我が飛びそうなほどの焦燥感が襲うから触れたくはない。
だけどワープ先を読まれているのか、それとも相手のスピードが上がっているのか、どうしても手を出さないといけなくて……。
「きゃっ!」
「いいですよ、拘束しなさい!」
コキュートスの言った通り、『氷獅子』はもう一度殴っただけじゃ砕けなくて……。
戦闘の終了を知らせるように、私は遂に足を噛まれた。
「痛い、冷たい、頭が……。は、離して……」
「冗談言わないでくださいよ。やっとの思いで捕まえた相手を逃がすわけないでしょう? さて、凍らせて献上……の前にちょっといたぶってやりましょうか。佐藤様にお会いするというのに、こんな顔ではいけませんからね。やれやれ。一度こうなってしまうと、頭を冷やすのにどうしても手間が掛かってしまいますね」
コキュートスの顔、それに背の触手は燃えるような赤に変わっている。
スキル【憤怒】による効果がどれだけ発揮されているのか、その指標となるのがこの色みたい。
腕一本……。ううん。こうなってしまう前に死ぬ覚悟すら持って攻撃をしないといけなかった。
私は……。私は……。……。あ、頭が、白んで……。
「……。殺す。絶対ここで。ダンジョンの異変を正常に戻す手伝いをすることはできなくなっても……。ここであなたを殺せれば、また違う未来を作れる!」
「そんな格好でよくもまあまだ元気があったものですね。訳の分からないことを言ってる暇があるなら歯を食いしばっていた方が賢明だと思いますよ。そうですね、まずは……『氷礫』」
「うっ! あぁっ!」
「いい声……。この胸がすっとする感じがたまらないんですよ。怒りっぽいのは欠点ではありますが、その分それを解放していくときの快感と言ったらもう……。さて次はどうしてほしいですか? 爪でも剥ぎましょうか? それとも耳の中にゆっくりと異物を入れて――」
『コキュートス。助かったわ。準備完了したわ。あなたも早くこっちにいらっしゃい。こっちのこれじゃあ、やっぱり心もとないから』
「了解しました。……ということだから。もっとこの身体を冷ますために利用してやりたかったし、献上品にいいとも思っていたけど、そんなことよりも佐藤様の命令が優先。私はここを離れるとするわ」
みなみちゃんの呼び出しに応じて背を見せたコキュートス。
ここだ。ここしかもう、殺せるタイミングはない。
私はこの瞬間、このためにここまで……
「ワープ、ゲート」
「う、ぐ、あなたまだこんな……。で、も……。『氷、鳥』」
ワープゲートで両手だけを転移。コキュートスの首を捕まえた。
でも冷えた空気から生成された氷の鳥が眼前に。
駄目だ。これじゃあ殺す前に……殺され――
「魔力消費、1」