128話
「しつこいなあ、もう……」
「『怠惰』のスキル、ちゃんと……使ってる?」
「当然。でもこの人間は、そんなの全然気にしてなくて……。なんだよ……休みたいとかずるしたいとか、『嫉妬心』でそんな欲どっかにいっちゃったのかな?」
「あいつら、かなり粘るな……。だけどあと少し、耐えてくれ朱音」
「あんなのばっかり誉めないで、私だけ見て。飯村、君……。あと、少し……意地でもこれを押し込むから」
初回、朱音の『空間爆発』が炸裂してから十数分は経っただろうか。
大罪の名を持つモンスターたちの発する黒い波動はその力を衰えさせ始め、その進行は止まるどころかその顔の手前まで後退。
優勢なのは間違いなく朱音だが、その表情に余裕はない。
というのもここに移動してきているモンスターたちの殆んどが金色のそれに変わり、経験値を大量取得。
俺のレベルが上がり、保有できる魔力の総量が増えたせいで朱音に譲渡できる魔力が減ってしまっているのだ。
それにこの衝突による衝撃は、受け止める朱音に目には見えないダメージを与え続けている。
両者共に限界は近いというのに……。
緊迫した状況の中、俺は周りの雑魚を倒すことしか役割がないなんて……歯痒いにも程がある。
もどかしさから一度魔力矢を放ってみたが、黒い波動は多少の揺らぎを見せた程度。
何も効かなかった数十分前から比べて、その効果の衰え具合は確認できたものの、そんなのできたところで――
『レベルが上がりました』
またレベルアップ。
確認してないが、大量の金色モンスターのおかげでそろそろ400の大台に乗る頃か?
まぁこの状況だと素直に喜べないが――
『弓使い【玄人】の次回進化まで残り100を切りました。飯村一也のユニークスキルが解放されました。これは弓使い【玄人】の状態限定スキルとなり、進化後はユニークスキルが新しいものに上書きされます。ユニークスキル《無作為強化》。パッシブスキルと同様常時発動。弓攻撃時、常に魔力消費1。パッシブスキルが強化されました。魔力の譲渡共に経験値も若干譲渡可能になりました。ステータスからオンオフ切替可能』
ギャンブル性の高いスキルがきたか……。
ユニークスキルということは俺だけのもの、個性と言ってもいいはずのものだが……そんなにギャンブル要素の強いものにはまった経験なんてないんだけどな。
まぁ、そこにツッコミを入れるよりも早速試させてもらうか。
もしかしたら、直接朱音の加勢ができるようなスキルかもしれないからな。
「魔力消費、10。……頼むぞ」
祈りを込めて魔力矢を発射。
矢じりが肥大化、スピードアップ、消音、不可視状態、等目に見える強化もあれば、そうでないものもあり、恐らくは威力や耐久値なんかが強化されていると思うのだが……。
「俺の求めてる強化はない、か……」
「それ効かないって、忘れたの?馬鹿なんだそっちの人間は」
「考えるのが面倒になったとかじゃないかな?まぁわからんくもないけど――」
俺が魔力矢を放ったのを確認すると、2人は鼻でそれを笑った。
だが次の瞬間、放たれた魔力矢の1本だけが勢いを削がれながらも黒い波動をすり抜けていった。