127話
「あれ? ちょっとその反応は、予定になかった」
「結局俺のスキルもそっちのスキルも万能ってわけじゃないから。はぁ……。面倒……。だから、これで終わってくれよ。めい、もうちょっとこっちに」
「……。お兄ちゃんの頼み、嫌だけど……仕方ない」
人間の時の呼び方、か……。
一応ターゲット設定から名前を確認してみるが、バアル【怠惰】とレヴィ【嫉妬】という記載だけで、やはり『めい』なんて日本人風な名前はどこにも見当たらない。
こいつらは今までのモンスターたちと違い、未だに人間の時の記憶がしっかりと残っているのかもしれない。
とはいえ見た目は既にモンスター。
悪魔らしい羽と2本角、目元は人間風だが、口元は猫科の猛獣をより凶悪にしたような風貌で、その鋭い牙をちらつかせている。
「合体魔法ってやつかしら?いいわねぇ、あなたたちは仲が良さそうで」
「そんなところにも嫉妬するのか……。一々面倒。あれどうにかならないのか?」
「1度スキル使うと、丸1日効果は続く。私か対象が死なない限り。だから……」
「これで片付いてくれよ。『バニシングソウル』」
2匹を中心に黒い波動がゆっくりゆっくりと進み始める。
想像していたよりも勢いのない攻撃に拍子抜けといった感じではあるが、これは好機。
「魔力消費、10」
俺は周りにいる雑魚モンスターを殺しつつ、統括モンスターの2匹も殺そうと弓を引いた。
「なっ……。打ち消された……」
「これはこの場から動けなくなるし、お兄ちゃんの怠惰で足止めしてもその場からほぼ100パーセント逃げられるんだけど……」
「そこの面倒なのがいるおかげでお前はこの魔法から逃げられない」
「面倒なのって……」
「飯村君。ここから逃げてクロちゃんのところにいくの? 私を置いて? 駄目、それは絶対駄目。お願い、ここは私がなんとかするから。もしできなくても……。飯村君は私と死んでくれるでしょ?」
必死にしがみついてくる朱音と、迫りくる黒い波動。
どうやら俺に出来るのは、周りの雑魚処理をしながら朱音に魔力を供給していくことしかないのかもしれない。
だからといって、俺の魔力矢が効かない魔法を朱音がなんとか出来るとは思えな――
「『空間爆発:連爆』」
「あれを押し返している……」
朱音は逃げないようにするためか、力強く俺の腕を片手で抱き締めると、今度は今まで出し渋らせていた空間爆発を連発。
黒い波動の進行は止まるどころか、徐々に2匹の元に押し込まれ始めた。
「私の爆発は威力こそ高いけど、芯がないというか、中身が空っぽというか……。飯村君の魔力矢と違ってものって感じじゃないでしょ。あなたたちの魔法。その名前から性質を推察した感じ、私の爆発は対象外かなって思ったのよね」
「感が鋭い……。面倒だな」
「それ、強い。あなただけずるい」
物には魂が宿っている。
そんな言葉を消滅という判定で体現できているってことか?
魔力矢に魂……考えたことはなかったが、追尾している様子は生き物のように見えなくもないような……。
いや、今はそんなことより懸念すべきことがあった。
「朱音、魔力は大丈夫なのか?」
「転移に比べればこっちはそこまでだから。でも、押しきれるかは微妙……。その……私のために、魔力をお願いできるかしら?」
「あ、ああ……。都合よく下からまだまだモンスターがこの階層に移動してきているし……。急ぎたい気持ちはあるが、少しばかりの耐久戦、開始だな」