126話
「……っく。胸が苦し、いっ」
「朱音大丈夫か!?」
「朱音さん……。とにかくここから離れましょう!まずはみなみちゃんを止めるのが最優先ですし、みなみちゃんさえなんとかできればこの人たち……モンスターたちもどうにか出来るはずです。動けないようならまた私がおんぶして――」
「触らないで!! ……。……。……ご、ごめんなさい」
クロに対してこんなにも強くあたるなんて……。
『嫉妬』の力とはいえ、クロは口が塞がらないようだ。
「ふふ、あははははっ! やっぱり。やっぱりやっぱりやっぱり! 分かるの、私。自分と似た感情を……強い嫉妬心を持つ個体が!その心もっと増長させて、そっちの女を殺すの!」
「うっ。いやっ……。こんなの、私は、望んでな――」
「きゃっ!」
必死に抵抗して見せた朱音だったが、その腕はクロへと差し向けられ、そのまま大きく振るわれた。
その形相と、勢いから恐怖を感じてクロは両目をぎゅっと瞑り縮こまる。
「朱音……」
「ご、めんなさい。ごめ……。なんで、飯村君は、そっちの……。ごめんなさい」
俺はそんな2人の間に割って入ると朱音の手を握った。
必死に謝ろうとする朱音の言葉には既に恨みや妬みの言葉が混じり、その手にはより強い力が込められる。
これが朱音の本音ということなのだろうか……。
「こんな状態のまま、朱音を無理矢理連れてはいけない。だからってここに残しておくわけにも……」
「だったら……私だけ先に行くね。私がいると余計に朱音さんが困っちゃうだろうから。それに、みなみちゃんも私と2人きりの方が話しやすかったりするかもしれない」
「でも……それは危険だ」
「大丈夫!何かされるかもって思ったら直ぐに戻ってくるから。絶対に無理はしない」
「クロ、ちゃん……。クロ……またあなたばかり心配されて……。ずるいずるいずるいずるいずるい! 私の方が、私の方が長くて、早かったのに! 泥棒よ、あんたなんかっ!」
「……。あ、はは。ほら私、今は邪魔者だからいない方がいいんだよ。じゃあ……先に行ってるね」
「クロ! 俺も、俺たちも急いでそっちに行くから!」
「うん」
無理に笑うその顔に一抹の不安を覚えるも、朱音の手を離すわけには行かず、俺はクロを見送った。
「クロ……ちゃん。……。私、私……。なんてひどいことを……。……。ごめんね飯村君。みっともなかったわよね。私、見た目ばっかり大人で、見栄をはって……。でもこんなに子供なのね」
「スキルの影響だから仕方ないさ」
「仕方ない……。なら、こうする。独占しようとするのもスキルの影響なら仕方、ないわよね」
顔をうつむかせ、申し訳なさそうにしていた朱音を見て、俺はそっと手を離した。
だが、それが仇となった。
朱音は俺の身体に力強く抱きつくと、身体をよじらせ始めたのだ。
無理矢理引き剥がしたいが、そうすれば朱音に怪我をさせかねない。
それにこの行為は俺を攻撃するためのものではなく、悪意を感じない。
きっとこれを振り払うのは、朱音の精神をも傷つけることに……。
「面倒だけど、今が好機だね」
「そうやって、またいいとこ取りしようとするの、やめて」
俺の目に映ったのは魔法攻撃の準備が完了した2匹の統括モンスター。
「まずいな……。朱音をすまない、が?」
「あのね、あなたたち。ここにいるのは私の飯村君なの。この時を邪魔するなら……殺すわ。容赦なく」
ただならぬ雰囲気。
魔力がオーラとなって体表ににじみ始めているのが余計に迫力を増さしているのか……。
どうやら、スキル『嫉妬』は朱音を面倒な存在にするだけでなく、強化してしまったのかも知れない。