125話
「変わっ……た」
放たれた魔力矢がワープゲートに飲み込まれると、黒く禍々しい、例えるならそう、子供がイメージだけで描いたブラックホールのような見た目に変化をを遂げた。
本当に自由に移動が可能なものであるなら利用しないわけがないのだが、どうしてもこの見た目だと多少躊躇が――
『なに、それ……。私のダンジョン……めちゃくちゃにすんじゃないわよ……。ゲームなんだから……。これはゲームなんだから、私の作ったルールにのっとれよ』
「みなみちゃん……」
『チーターが、簡単に私の名前を呼ばないで……。不快。不快不快不快……』
「クロちゃん、飯村君。ここでこんなゲーム脳の子供と話をしている時間は無駄よ」
「そう、だな」
荒れた映像とノイズ交じりの佐藤さんの声。
ゲーマーとしては俺たちのようなプレイヤーは許せないってところなんだと思うが……。
もう佐藤さんの中では現実とそれの線引きが完全に崩れてしまっているのかもしれない。
思えば人をノスタルジアの木に変えたり、モンスター化を面白いものと捉えている時点で……。
『もういい。最後の手段として準備をしていたこれを使う。そっちに作戦を移行。ただ……それでも時間がまだ欲しい。全員、それまで耐えて。あと数分……。耐えれなければ、何もなし得ないまま死ぬだけよ』
「――ぐぎゃあぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁ!」
「やれやれ……。労働しなくていい世界を作るために強制的に労働をさせられるって……。矛盾もいいところだよ。それにこうやって移動するのに魔力を消費させられて、手間もかかるのに……本当に、面倒なことは止めてくれよ」
「面倒面倒って言ってるあなたが私より深い階層を任されているの、おかしい。私はみなみの、みなみ様の1番。私より期待されているの、もっと光栄に思え。このでぶ」
下り階段から現れた2人、いや2匹のモンスター。
統括モンスター……。こいつらが大罪を冠したモンスターであるとして、残りの大罪モンスターは1匹になる。
つまり、佐藤さんは俺たちの足を止めるため、残りのカードの大半を切ったということ。
もう俺たちを肥えさせるとか、残りの階層を使って足止めとか、そういった考えは完全に捨てた、捨てなければならないと判断したらしい。
「統括モンスターだけじゃなくて、いろんな階層のモンスターたちまで突然……」
「他の階層で生み出すよう設定されたモンスターを集中させているのかもしれないな。おそらくここ以外はもうモンスターが出現しないようにさえなっているんじゃないか?」
「チーターを倒す、足止めするために自分もチートを使うって……それこそゲーマーとしてどうなのって感じね。まぁいいわ。この距離なら邪魔することは不可能でしょうから早くワープゲートに――」
「『怠惰:伝染』。完全に足を止めるのは無理だけど、その思考にちょっと面倒って思いを紛れ込ませることはできる。それは、本当にちょっとしたものかもだけど……」
「『嫉妬:増長』。その隙に……。年増のあなた。その心、私が解き放ってあげるからね」