124話
「弓が……勝手に?」
スキルが発動されると、俺の構えていた弓に光が纏い、勝手に魔力矢が装填された。
『……。……。……。発動者による指定なし。よって時間設定、空間設定はランダム。発動のキャンセルはできません。……。まずは、1本の魔力矢を発射』
呆然とアナウンスを聞いていると、俺の意思とは無関係に体が弓を引いた。
時空転移弓を使った時と同じように魔力矢はそのままどこかに消え、辺りには何も変化が起きない。
「スキルが失敗、した?」
『魔力矢の到着を確認。対象の転移を開始します』
「――な、なんだこれは!? か、身体が消えていく……。どこかに、俺の身体が……。なら一度この身を断って逃れる! ……。うっぐ!!」
少し間が空き、《時空旅行》の効果で強制的に転移は開始された。
それに抵抗すべくフェネクスは自身の転移スキルを発動することなく、残っていた俺の魔力矢をわざと、早々に受ける。
おそらく一度蘇生してしまえば、通常は状態異常などがリセットされるのだろうが……斬何ながら今度のスキルはそうはいかないようだ。
蘇生中にも拘わらず、《時間旅行》のスキルはフェネクスのシルエットを映すように白い靄をうっすらとかけ、そしてそのシルエットを下半身からゆっくりと消していく。
「これで駄目ならもうこれしか……。ノスタルジアの木へと変化! 根よ、この地になんとかしがみつけ! しがみつ……。……。もう、何をやっても……」
フェネクスは最後のあがきとして姿をノスタルジアの木に身体を変える。
だが、俺たちのスキルはそんな一縷の望みさえも無視してフェネクスをこの場から消していく。
「……。倒すことはできないスキルだけど、対象を排除するって言う意味では最強、って言っても良さそうね」
「凄い。けどちょっと怖い」
完全にフェネクスの姿が消え呟かれる言葉たち。
何とも言えない空気が流れ、その後の会話は続かない。
『――初めての《時間旅行》に成功しました。時空転移弓の効果がグレードアップしました。サポーターの力と併用することでダンジョンシステムであるワープゲートが更に自由に利用可能となります。ワープゲートの性能向上はこれで最大となります。これは旧ダンジョンより共有され、後天的に授かったシステムのため、ダンジョンマスターである佐藤みなみによる阻害を受けません。この利用権限はサポーターのみとなります』
「……。後天的……」
「……。ということはここからみなみちゃんのところ、まで?」
「えっと、何があったか教えてもらえる二人とも」
「つまり俺たちのスキルが作用して、階層関係なく、条件なくダンジョンの好きなところに移動が可能になった。アナウンスの言葉からしてこっちの旧ダンジョンと新ダンジョンのどちらも」
「それって……。ダンジョンのこの構造がもう……。攻撃力がすごいとか、それ以上の……」
「と、とにかくワープゲートを顕現させますね」
「ああ。俺も準備を……魔力消費、1」
おどろおどろしくワープゲートを顕現させたクロ。
俺はそんなワープゲートに色々な憶測を一端胸の内にしまながら魔力矢を放った。