119話
「くっ、だがそんなもの――」
――ボゥッ
刺さった魔力矢はスキルを発動させた時ほど激しく燃え上がることはないものの、ドラゴニュートの腹部分を黒く焦がせるくらいの火力を発揮。
想像以上の火力だが、クロのバフがこの属性攻撃にも影響を及ぼしてくれているお蔭なのだろう。
「あ、が……。このままでは……。こ、この程度の炎で俺を倒せると思う、なよっ!」
あまりの衝撃にドラゴニュートは、慌てて魔力矢を引き抜こうとするが……このチャンスに俺が追撃を加えないわけがない。
「属性弓:雷に切り替え、魔力矢装填……エンチャント完了」
「させるか!人間っ!」
引き抜いた魔力矢を俺に突き刺そうとするドラゴニュート。
だが俺の攻撃の準備も整った。
雷のエンチャント効果が俺の思うようなものであれば、互いにダメージを負ったところで有利な状況になるのは俺。
ここは無理矢理にでも攻撃を当ててやろうじゃないか。
「もう一発……。情けない姿を晒してやる!」
「退かない姿勢見事だが……見誤るなよ!この俺を!」
俺の持つ矢とドラゴニュートの持つ矢が交差する。
しかし、それが放つエフェクトには大きな差が生まれていた。
腕全体に纏わりつくような炎のエフェクト。
しくじった。ドラゴニュートのスキルが相手のものを支配するだけだと勘違いしていた。
これを喰らってなお、俺は立っていられるのか?
「散れっ――」
「飯村君っ!」
視界に映る朱音の姿。
スキルを使って俺の背後からドラゴニュートを押し倒すようにして飛び込んで来たのだろう。
お蔭でドラゴニュートは体勢を崩すどころか、朱音に注視してくれている。
これで朱音の残り魔力はかなり少なくなったはず。
きっと体調に異変を感じているだろうに、ドラゴニュートからその手を離したりはしない。
俺はそんな朱音の行動を無駄にしないためにも、祈りを込めて魔力矢を突き刺した。
「い゛。だが、まだ、まだ……。なっ! 身体が動きにくい……」
「やっぱり効果は薄いか……。だけど、それだけ動けなくしてくれれば十分。属性弓:雷エンチャント……完了」
ドラゴニュートの持つ炎属性エンチャントの矢を余裕をもって避け、さらに追加で雷属性エンチャントの矢を突き刺していく。
最初は必死に避けようと身体をよじっていたドラゴニュートだったが、朱音がそれを押さえ込み、矢は面白いくらい簡単に刺さっていった。
結果ドラゴニュートはその指先すら動かすことが出来なくなり、ついに静止。
その様子を見た朱音は気が抜けたのか、ドラゴニュートの握っていた火属性エンチャント済みの矢と共にそっと地面に落ちた。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ、くそ! まさかこの俺が、何も出来なくさせられるとは……」
「まだ話す元気があるのか……。随分頑丈だな」
「……やれ。このまま生き恥を晒すくらいならさっさと死んだ方がましだ」
「潔いんだな」
「当然だ。俺はドラゴニュート。モンスターの王」
「王、か。じゃあ佐藤さんはどうなんだ?」
「やつは……。やつのために何かをしてやりたいと、思う気持ちはあるが……。うっ!その原因がさっぱりわからん。ただ……そこの女、そしてそっちの隠れている女。男の一対一に割り込むようなことをされたのだからこ奴らには怒りが芽生えてもいいはずなのだが……それが一向にない。ふ、俺は元来女に弱い人間だったのかもな」
「そうか。なら俺と同じだ」
「はっ!最後に嫌なところで気があったな。ただただ嫌いなやつに殺されるとばかり思っていたが……。これなら悔いることもないか」
「そうかい。そういってもらえるとこっちもやりやすいよ。魔力消費50……」
「……。お前は俺を殺した唯一の人間となった。なればそのような気高き人間は今後は罪悪感など感じることなく、モンスターを殺さなければならない。中途半端に情を掛けられて死ぬなど、モンスターといえどプライドが穢れるからな」
「分かった。その在り方は胸に刻んでおく」
「ふ、世話がかかるな。人間というやつは、皆」
俺は最後の言葉を聞き届けると、同時に弓を引いたのだった。