117話
「――はっ……。女の身を案じて爆発の矢は使わない、か。ぬるいなあ。俺がどれだけの敵なのか分からんわけでもないだろうに。そんな貴様だからか、どうやらこの矢も俺を選んだようだぞ。貴様とは違う、この高貴な存在をなあっ!」
俺が放った魔力矢は空中で静止したかと思えばそのまま旋回。
俺たちを狙い再び動き始めた。
これがドラゴニュートのスキル。
まさに王という冠に相応しい従属させるスキルのようだな。
「それで、狙いは俺か」
「ふ、焦っているな。まったく、人間というのはなんと精神力の低い生き物なのか。さぁ、自分の飼い犬だったものどもからみっともなく逃げ回れ。ゴキブリのようにカサカサと動き回る姿はきっとお似合いだろうよ!」
ドラゴニュートの声に力みを感じると同時に魔力矢はスピードを上げた。
スキルの全容を把握するために他の矢で撃墜することはせずとりあえず避けてみるが、その言葉から推察できた通り使用者がドラゴニュートという状況でも必中の効果は続き、魔力矢は俺の後を追い続ける。
この様子だと会心の効果などもそのままの可能性が高い。
万が一俺に当たったとして、生まれた衝撃によってクロも朱音も即死だろう。
「撃ち落とすしかないか……。ターゲット設定――」
「あまい! あまいあまいあまいあまいあまいっ! そんなことをこの俺がさせると思ったか!」
翼を羽ばたかせたかと思えば、ドラゴニュートはあっという間に俺のもとに。
その足で頭部を蹴られ、俺はクロと共に地面に伏す。
単純にステータスが高いせいか、他のモンスターの攻撃よりも遙かにダメージが入ってしまう。
それに頭がふらふらと……。
「――玉座と足置き台、それと二人の場所を……移動」
「なっ!?」
危機一髪、俺たちは朱音のスキルによってその場から回避することに成功。
急いで魔力矢を準備し、俺は転移弓を使ってドラゴニュートの操る魔力矢を撃ち落とした。
飛び出す箇所が予見しにくいことが原因だったのか、それとも他の条件が整わなかったのか……。とにかくドラゴニュートのスキルが発動しなかったのは本当に助かったが……。
「魔力矢を使うのはあまりにもリスクが高い……」
「今のは驚いたぞ! 女、褒めて遣わす。だが、そのような特殊なスキル、無限に使えるものではないだろ? それにその矢は既に見切った。もうどの位置から攻撃を仕掛けようが無駄だ。依然俺が優勢だが……どうする弓使い?」
「くっ!」
「あっはっはっはっはっはっ! いやすまんすまん。どうするもなにも、あとはその拳で戦うことしかできんよな! 俺が強くなり過ぎたのか、それとも俺がお前の強さを見誤ったのか……なんとも陳腐な幕切れよ。醜く抗い、みっともなく死ね!」
ドラゴニュートは勝利を確信したようで、ゆっくりと、優雅に歩き始めた。
傲慢。その名の通り、俺たちのことを随分見下してくれているようだ。
拳だけになったとしてもまだ俺たちの負けが確定したわけじゃないってのに。
「好き放題言ってくれやがって……。俺だってレベルが上がって――」
「絶望の表情を見せればいいものを……。まだ勝てると思い込んでいるその顔は不快だぞ」
再び翼をはためかせて一瞬で距離を詰めてきたドラゴニュート。
俺は咄嗟に拳を突き出すが、それに対してドラゴニュートは擦り合わせることで金属音を響かせることができるその爪を差し向けた。
「――魔力矢……」
「な!? 貴様に、弓使いとしての誇りはないのか?」
このままだと串刺し。
拳を引っ込めることはもうできないという状況。
そんな中俺は条件反射で咄嗟に魔力矢を顕現させ、まるでそれを剣のように扱って見せたのだった。