116話
「……」
「……」
「……」
ドラゴニュートがこの場を去ってから、俺たちはナーガの墓を作って黙祷。
ナーガの死体がきれいさっぱり消えてしまい、仕方なくドロップした魔石を代わりにして墓を作ったのだが、遺族に人間だった時の証拠、骨すら渡すことができないのは悔やまれる。
人間として普通に生活して寿命を全うしていればこんなことには……。
リスポーンすると分かっていても胸の内にモヤモヤとした感情が残る。
「――ふぅ。それにしても鼻につくやつだったけど……本当に襲ってこないわね。上に報告して一気に攻めてきてもおかしくはないと思ったんだけど」
「自分のポリシーを曲げたくない、悪く言えばプライドが高い王様気質、良く言えば漢気があるってところかな。それに佐藤さんは俺たちを経験値として見ている。自分のもとに辿り着くまでに肥やさせたいって思いもあるんだろう。死んだナーガが正にそんな感じにさせられていたように」
「ナーガさん……。きっとすべてを忘れてまたリスポーンして……」
「一生戦って戦って戦って……。今まで何気なく倒していたモンスターたちも同じような境遇なのかもしれない、と思ったら罪悪感が湧くよな」
「だからそういう被害者、被害を受けるモンスターをなくすって意味でもまずは佐藤みなみをなんとかしなくちゃでしょ。この先にはあのドラゴニュートが待っているんだから、そうやってしょぼくれるのは程々にしないと駄目だと思うわ」
「すまん」
「すみません」
「ほらさっさと行くわよ! 今度の相手は私も戦う。飯村君もいくら強くなったからって油断しちゃ駄目よ。多分だけど、今度の相手は今まで対峙したどのモンスターより強いわ」
「とんでもない量の経験値も取得したみたいだもんね。一也さん、私のバフ初めから利用して」
クロは神妙な面持ちで俺の背中に手を当てる。
朱音の言う通り、ドラゴニュートの放つその雰囲気はどのモンスターよりも迫力があり、その所作一つ一つは素人の俺の目で見ても隙を一切感じなかった。
卑怯と罵られることになるとしても、奇襲を仕掛けるのがいいかもしれない。
「――それなら時空弓や転移弓を使うのがいいか……。いや、それは時間を与えてくれようと一度身を引いたドラゴニュートに対してあんまりにも――」
「見えたわ。あれ? あいつ腕が……」
六〇階層に足を踏み入れようとする俺たちをニヤニヤと見つめながら、椅子の肘掛けを利用して頬杖をつくドラゴニュート。
ナーガに食われたはずの腕が元に戻っていることから、トロルのような再生能力があることが分かる。
「遅かったな。どうやらお前たちは心底お人よしの集団のようだ」
「安心しろ。ただ墓作りに時間を食っただけだ。元人間であってもモンスターとなっていれば俺たちは容赦なく対象を殺せる」
「……。あはははははは! 強がるな強がるな!」
「強がってなんて――」
「であれば何故お前たちは俺の言葉に反応し、返答までしたのだ? お前たちがお人よしでないというのなら既に攻撃が開始されているはずだろう?」
「こいつ……。揚げ足をとって……」
「ほう。一番に動くか、女。どうやらお前がある意味で一番の戦士のようだな。気に入った」
「それは……どうも! 『空間爆――』」
「だが少し肉付きが良すぎるのではないか? 動きが遅いぞ」
全力で走り出した朱音はスキルを使って、ドラゴニュートの隙を突こうとする。
しかしスキル発動直前、ドラゴニュートは羽を強く羽ばたかせ、まるで瞬間移動かと思うようなスピードで朱音に接近。
その手を握って見せた。
俺はそんなドラゴニュートに足してノータイムで矢を発射。
それに意識を向けた隙に、朱音はドラゴニュートの顎を蹴飛ばして何とかその場から逃げ出す。
「き、決まったの?」
「いいえ。あれは、まだ……」
「本当に強敵だな。今度の相手は」