114話
「流石にあの数を相手にして、ナーガが一矢報えるとは思えない。早々に殺されるのはこっちとしても望んでないし、援護をしてやるか。魔力消費――」
「待って。あの動きのキレと相手を見た途端の瞳の変わりよう……。多分だけど今のナーガは私たちが知っている弱いモンスターじゃないわ。魔力と体力の温存は出来れば飯村君にもして欲しいし、少しだけ様子を見ましょう」
「朱音がそう言うなら」
俺は魔力矢の準備を止め、ナーガの出方、そしてグレムリンたちの戦い方に注視する。
グレムリンというモンスターは確か悪戯が好きで、戦闘能力自体は高くない。
ただその代わりにスキルが豊富で、毒、麻痺、暗闇化、嗅覚異常、味覚異常等の状態異常効果付与が秀逸と聞いたことがある。
小学生低学年程度の知能と器用さ、それにスキルが合わさることで、『ホーム●ローン』や『ト●とジェ●ー』並に翻弄されたなんてこともあったようだ。
事実、この階層には明らかに罠が仕掛けられていて、何で作ったのかは分からないが、その罠を起動させるためであろう縄や地面に色の違う不自然な箇所が散見される。
そんな中、ナーガはそれらに対して注意することをまるでせず、毒の沼、木の矢、落とし穴等古典的な罠全てを晒けださせ、悉く突破していく。
特に状態異常系の罠に対しては、避ける素振りも見せず突っ込む。
佐藤さんがナーガの『食べたい』という欲求を操作し、増加させたことで、自分の支配下にないこの階層ですらスキルの対象としてしまったらしい。
となれば当然直接状態異常のスキルを受けたところで問題なく、ナーガは簡単にグレムリンの正面まで移動を完了させた。
そんなナーガに対してグレムリンたちは仕方なく素手や牙で攻撃を仕掛けるが、朱音の言うとおりナーガのステータスは今までのものとは違うようで、一向にダメージを負う様子はない。
それどころか、攻撃してくることをいいことに、ナーガはその場に立ち止まりカウンター軸の戦法をとり始めた。
襲ってくるグレムリンをその尻尾で捕まえて絞め殺す。
それを食う隙を狙ってまた新しいグレムリンが寄ってくる。
これはもう戦闘というよりもただの食事。
この状況を打開しようと、ホブゴブリンは必死に命令したり、バフスキルを発動させるが……。
「疲れた奴は調理が簡単だな」
疲弊したところに忍び寄るナーガの尻尾。
それが触れた瞬間、ホブゴブリンはノスタルジアの木となり、そして食われ始める。
「……。ごめんな」
このホブゴブリンたちも自分と同じ境遇だと思うと、罪悪感が湧き出てしまったのか、謝罪するナーガ。
そしてそんなナーガは細い身体を更に太くさせて、次の階層へと向かう。
「げふ……。なるほど、そういうことか。俺もそのうちそっちに行けるみたいだ」
膨れた腹を擦り、何かを理解したナーガ。
そして同じく理解してしまった俺と朱音は、その結末を敢えてクロに伝えないまま後を追った。