113話
「俺たちを経験値呼ばわりか。なかなかレベルが上がらないなんて言ってた割に随分と自信有り気だったな。仮にも手駒として強力な仲間を2人も倒されたっていうのに……」
「旧ダンジョンと同じでここは50階層だろうから、中層を任せてる2人なんて強力でもなんでもないのかも。実際、ナーガ【暴食】との単純な戦闘は私1人でも勝てそうな雰囲気だったから。それに旧ダンジョンの普通のモンスターの中に、こっちでは人間のままスキルと記憶を維持している個体が紛れてるはず。なんでもない階層も油断ならないわ」
「そうだが……。それでも朱音は魔力を使いすぎている。統括モンスター、或いはボス以外は取り敢えず俺が相手をさせてもらう」
「それは助かるけど……。あんまり過保護にされすぎても女の子って嬉しくな――」
「ぐえっぷ……。もっと……。もっと……。くく、腹が裂けそうだってのに食欲は増す、か。モンスターコマンドを使ったことのある奴ら全員が、実は佐藤、様の制御下にあったってことかな。デメリットのモンスター化、あの変な条件は自分がそれを決定していると仲間に感づかせないためで……。やろうと思えばもっと、早く簡単にできた、かも……」
俺たちの会話を遮るようにナーガは特大のげっぷを吐き、ボソボソと呟きながら次の階層へ移動を始めた。
『もっともっと』という言葉から、俺たちを襲ってきてもおかしくはないと思ったが……まだ俺たちを気に掛けるくらいの余裕はあるらしい。
「――殺してくれるって言ってたのに……。佐藤、様……。佐藤……様。あ、あぁが、こんなに残酷な……。あ゛があぁあぁあ!」
そしてしばらくナーガを遠目で観察しながら歩いていると、ナーガはなにかに駆り立てられたのか突然走り出した。
目を細めると、その先にはホブゴブリンが数匹、もさもさした毛が特徴的な小柄なモンスターグレムリンが大量にいることがわかった。
おそらく食べ物の匂いに釣られてしまったのだろう。
その姿にもはや愛嬌はなく、おぞましささえ感じてしまう。
「ナーガさん……。一也さん、もういっそのこと殺してあげたほうが……」
「ナーガとあの男性、今いるナーガとこれまでに死んでいったナーガ、全てが同一のものだとして、何故俺たちが初めて遭遇したナーガは旧ダンジョンにいたのか、いつ移動してそれぞれどれくらいの期間居ついたのか、もしかしたらそれが、ダンジョンの異変を引き起こす原因に繋がっているかもしれない。可哀想なのは分かるが、俺たちの声はもう届いていないし、質問も難しい状態。今は泳がすだけ泳がして何か情報を得たい」
「それに、私たちの敵を少しでも倒してくれるのであれば有りがたいものね。非情と思うかもしれないけど、これも確実に目的を達成するためよ」
「うん……」
「あっ! 群れに突っ込んだぞ!」
非情になりきれないクロ。
そんなクロの熱い視線を受けるナーガは、自分が弱いということを理解できないほど自我を失い始めたのか、そのままグレムリンの群れに突っ込んでいってしまうのだった。