109話
上の階層から女性の探索者、下の階層からは細身の男性探索者が姿を現した。
どことなく見覚えがあるような容姿の2人は余裕綽々に俺たちの前に立ち塞がると、口角を上げて口元を拭う。
その仕草はまるで腹を空かせたモンスターのよう。
「ねぇ申し訳ないんだけど、この子たちは私の奴隷にしたいから食べるのは止めて頂戴」
「俺の方が深い階層を任された。つまりは俺の方が偉い。俺がお前なんかの命令を素直に聞くと思うなよ」
「あら、さっきから私の胸ばっかり見てるスケベがそんなこと言うの?」
「性欲で見てる訳じゃない俺はあくまでお前の身体の味を想像していただけ。駄目なんだ、最近……モンスターを、人間までも食いたくて食いたくてしょうがない。佐藤様に頂いたこの力を使って……。モンスターが当たり前に徘徊する世界、人間を殺すことが当たり前になった世界で腹一杯食うこと、これになっちまった」
「食べるのもいいけど、それよりも性欲が至高よ!私はあらゆるイケメン、美女、モンスターを支配して、毎日性欲に溺れていたいわ!そのためには……」
「そう。ダンジョンの正常化を目指す探索者は邪魔でしかない。当然お前たちもだ。飯村一也とそのお仲間さんたち」
天を見上げながら、自分の理想を恍惚の表情で語った二人。
そしてそれが終わると互いの視線を合わせ、いきなり俺たちとの距離を詰めてきた。
「私の誘惑」
「俺の味付け。まだ完全に配属されていない、いまだけの特別コンボだ」
この匂い、嗅いだ覚えがある。
それに『味付け』……。
それって、こいつらまるで……。
「デモンルインとデモンナーガじゃないか……。だとしたら、全員口を鼻と口を塞ぐんだ!それに絶対身体を触らせるな!」
「一也さんもしかしてこの2人……」
「ああ!どうして後から現れたものがそうなるかは分からないが、この人間たちは統括モンスターの『祖』、もしくは、統括モンスター『そのもの』だ!」
俺は目の前の2人に殴りかかりながら叫んだ。
あり得ないことだと思われるかもしれないが。
もう、そうだとしか思えない。
であれば、見た目が完全に人間と言えど弓を使うべき。
「って思っても……。そんなに俺たちは単純にできてないんだよな」
「飯、村君……」
「朱音……」
「私たちは一回受けてるから慣れがあるけど……初めて、しかも不意にだと……」
女性探索者のスキルによって動きの鈍る朱音。
このままだと、男性の探索者の攻撃は避けられないかもしれない。
……殺るしかない、のか。
魔力消費を最小に抑えて、威力もなんとか……。
『条件を満たしました。新スキル峰射ちを取得しました。使用すると通常攻撃への切り替わりに時間を要します』
会心に転移、属性等々、最初はなんでこんなに弱い職業に就いてしまったのかと思ったが……。
「都合良すぎで怖くなるよ、まったく」