108話
「ナーガ!? なんでこっちに……。まさか裏切っ――」
「そこは邪魔だからどいてもらってもいいかしら?」
会談を登り切った先で待っていたのは日本語を話すホブゴブリン。
身に纏う洋服やアクセサリーを見るにこいつも、この奥にいるホブゴブリンたちも元人間で間違いないだろう。
そんなホブゴブリンを朱音は容赦なく蹴り倒し、次の敵に狙いを定める。
まだダンジョンの形成がしっかりとしていないのか、この場所は比較的狭く、下に続くであろう直ぐ側に階段と、大きな穴、それに下り坂が見える。
おそらくだが、階段の設置は基本のそれではなく、このダンジョンの元々の構造はこの穴、あるいは道を下る自然な洞窟だったのではないだろうか。
それをゲームに寄せて階段だけの移動に変えて、俺たちが知っているダンジョンの作りにした。
佐藤さんならわざわざそんなこともかねないし、仲間もそれに賛同しそうだ。
だが、深く階層を作り上げることが優先でそれがおざなり。
今の俺達には下に向かう方法がいくつもあるといった状態だ。
これなら即座にノスタルジアの木で階段を塞がれても、下っていくことが不可能になる可能性が低い。
なんなら旧ダンジョンとは違い、掘り進んでいくなんていう荒業さえ通用しそうだ。
「こっちはまだ連絡機能を充実させられない。誰か携帯で――」
「なるほど、連絡方法はそれだけなのか。それは、助かった」
俺たちの襲撃を伝えるために、携帯を使用するよう促すホブゴブリン。
俺はそのホブゴブリンとの距離を詰め、鳩尾を殴った。
本当は完全にモンスターの姿になってしまっているのなら殺してしまおうとも思ったのだが、俺との契約を忘れていないだろうな、と言いたげなナーガの視線を見たため、準備していた弓と矢をしまわざるをえなかった。
「ふふふ。まだまだ人間の匂いがするな。こいつら。これなら味のほうもきっと……」
「早速食うのは構わないが、ちゃんと拘束してほしいやつがきたらその時は頼むぞ!」
「も、もちろんだ! あまり見くびらないでくれるか俺のことを」
ナーガは連絡を取らせないように必死にホブゴブリンたちを素手で倒している俺たちの横で食事を開始。
至福の表情のナーガと戦う俺たちの光景ははたから見ればかなり異質に感じるだろう。
「――よし、ひとまずはこいつで終わりだな」
「お疲れ様一也さん。ごめんなさい、私あんまりできなかった」
「そんなことないさ。クロだってしっかり戦えて――」
「飯村君! 今の戦闘、私が一番多く倒していたと思うんだけど……」
「あ、ああ。やっぱりすごいな朱音。助かった」
「え、へへ――。……。待ってこの足音、下と上から来てるわ」
年齢に似合わず、褒めて欲しいアピールをする朱音の要望に応えてあげると二つの足音がゆっくり近づいてきていることに気づいた。
朱音はその足音に、表情を真剣なものに切り替え、ナーガはただならぬ緊張感に食事を一時中断させた。
余裕を感じる歩行速度。今俺たちのもとに向かっている相手、それは統括モンスター級かそれと同等以上の探索者の可能性も――
「あー腹減った」
「あらあら、なかなかいい男とお嬢さんたちじゃない」