107話
「四人、いや、三人と一匹。ん?あれ、開いてたっけ?」
モンスターなのか、それとも人間なのか、判断が難しい姿のそれはこの階層にいる自分以外の存在に気付き、注意深く辺りを見回した。
そしてワープゲートの異常に気付いたそいつは俺たちの元に近寄ってくる。
「待て、それよりも先に連絡を入れ――」
「攻撃を当てた!これきっかけで仲間が流れてくる可能性がある!ナーガ!急いでリンクしている階段を教えてくれ!」
「折角の人間の血と魔力だが……。向こうにいくまでの辛抱、か。仕方ない。おいお前らこっちだ!」
大声で先導を開始したナーガの後をついていく。
しかし、俺は半分ホブゴブリンになってしまったそれを見るために振り返る。
俺が知るモンスターコマンドの効果とは、どこか違う。
そもそもこいつはモンスターを連れていない。一人だ。
なにもリスクを受ける条件に抵触していないはずなのに……。
もしかしたらその使用頻度や期間が条件を厳しくして…… 。
人間のモンスター化が向こうでは当たり前になっている可能性も――
「見え、た。そっちには行かせ、ない!」
「投擲!?」
攻撃したことで俺の姿を捉えることができるようになったのか、そいつはノスタルジアの木で作られたであろう槍を放った。
破壊するなら属性攻撃のスキルを使うべきだとは思うが、武器の性質や強度を調べて見るために俺は槍を掴みにかかった。
「一也さん!?」
「大丈夫。大した速さでもない。スキルを使った訳でもない。今の俺ならこの程度素手で……」
槍を掴んだ手が摩擦でひりつく。
だが、そんなこと今はどうでもいい。
だって、これ……。
「う、はぁはぁはぁ……。な、なんてもの見せて……。しかもこれ、この槍……。人、間」
槍を掴んだことで流れ込んだ記憶。
それは人間がモンスターに変化し、ノスタルジアの木へと至るまでの軌跡。
モンスターになることへの恐怖と、死なないようにじっくりじっくり弱らせられる辛さ。
そんなものまで俺の中に流れ込み、吐き気を催してしまった。
だが、そんな中でも俺は疑問符を浮かべる。
この槍に至るまでに何故か何度も殺された映像が流れ、無限のような時間を感じたのだ。
つまりこの槍になった人間は、モンスターになってから何度も殺され、生き返った?
それも、佐藤さんがダンジョンを産み出すよりも前、俺たちが知っている時よりも以前に――
「ごめんなさい一也さん!」
槍を持っていた手をクロにはたかれた。
槍が床に落ちると吐き気は収まり、正常に戻る。
「もう、ちゃんとしなさいよ……『空間爆発』!」
俺を攻撃してきたそれを朱音は呆れるように爆発させた。
相手にまだ人間らしさが残っていたからだろうか、明らかに手加減された攻撃だったが、もう腕も足も使い物にならない状態。
連絡をとるなんてことはできないだろう。
「大丈夫一也さん?」
「あ、ああ……」
「全く二人ともしっかりしてくれないと困るわ。私だって魔力は有限なんだから」
「この先そこそこ距離がある。走りながらでしんどいかもしれないが、ある程度不安はないように整えておいてくれよ」
不安はないが……。
今の記憶の答え、それを知りたい気持ちと知りたくない気持ちが俺の中で交錯するのだった。