106話
「あ、あったあった! だけど駄目ね。てんで繋がっていないわ」
奥へと進んだ朱音は下り階段の横にひっそりと設置された扉に手を掛けると、それを開いて手を入れて見せた。
その見た目はどこかで見たことがあるような懐かしさを醸し出し、クロのワープゲートに比べて、扉としての体裁が整っている。
モンスターがここを通って上にやってこないのはこれが影響していそうだ。
なんというか、クロには悪いが完全に上位互換だな。
「ああ、それ開くのか」
「……。やっぱりモンスターが通れないようになっているんだな。ということはダンジョンの元々の機能というより、後付けされた……クロと同じで人間のためのものでしかないってことか」
「でも、そんなことをしてくれた人間なんて私知らないわよ」
「多分……クロのいた世界の人が仕組んだものだと思う。だからといってなんでこれが機能を失っているのかはわからないが」
質問してみたものの、これについての考えがまとまらないのか、目を瞑りながら首を傾ける朱音。
ナーガは興味無さそうな素振りを見せ、クロは……。
「う……」
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと頭痛が、ね。大丈夫。大丈夫だから」
その細い手を朱音と同じように扉に掛けると、クロの表情が曇った。
こうは言っているが相当痛みがあるのだろう。
「……そうか。だが無理そうなら言ってくれ。肩くらいいくらでも貸すから」
「ん。じゃあこうしちゃおうかな」
身体をよろけさせながらクロは俺の背後に移動すると、そっとその頭を押し付けてきた。
クロの様子に流石の朱音も黙って見ているだけなのは助かった。
「はぁ……。これが活きてたらクロちゃんが頭痛で辛くて、そんなことしなくても動けるような機械とか持ち込んでやりた――」
「おい! これ急に光始めたぞ!」
朱音が聞こえないくらいの小さなぼやきを口にしていると、今度はナーガが声を荒げた。
というのも、機能していないはずのワープゲートが唐突に変化を見せたのだ。
「この光り方……。間違いないわ!機能が復活してる!なんで?何がきっかけになったっていうの?ただ私とクロちゃんが触っただけよ!」
触っただけ。でもそれだけでクロは頭痛を起こした。
そもそもワープゲートを産み出せるクロが、これを直せる何かを持っていたとしてもおかしくはない、か。
「どういった仕組みなのかは分からないが、直したのはクロで間違いな――」
「あ、が……。さ、とうさまの命令に従い、交代に来たのだけ、ど……。あのワープゲート……。私たちの仲間じゃない誰か、がいる。とり、あえず。この階層を『アナライズ』」
声のする方を慌てて見る。
するとそこには、顔の半分をホブゴブリンにさせている人間がスキルを発動させていた。