105話
「これって……」
「みなみちゃんの声……」
俺よりも早く振り返るクロ。
その視線の先には荒れた映像ではあるものの、佐藤さんの姿が投影されていた。
ダンジョン間を繋げる道があるだけでなく、 高度に干渉することもできるようになったってわけらしい。
恐らくそれは佐藤さんのレベルアップにも影響しているのだろう。
「着々と力をつけてるってことか。佐藤さんのスキルの詳細は分からないが、もっと焦っていかないとノスタルジアの木以上に面倒な物を用意されかねないな」
「うん……」
「クロちゃん、気になるのは分かるけどここは無視して先に進みましょう」
朱音に諭されて視線を戻すクロ。
俺もそれに合わせて足を戻す。
『人やモンスターは無理だけど、物の移動はできるようになったから、武具は回収させてもらうね。あ、それとどう? 探索者たちは? この力、まだリンク場所からここまでが限界で』
「変わりはありません」
『そう。それにしてもあなたたち……』
「私たちがどうか致しましたか?」
『いいえ。ただ……もう場所もなにも関係なくなってるってことか』
「それは一体?」
『気にしないで気にしないで!それよりもこっちはもうそろそろ100階層ができそうで、そうなったらあなたたちも一旦帰ってきてもらう。もっと効率よくレベルを上げて、ガンガン探索者を倒して、フェーズは解放されて、それでもって外に侵攻!きっとその時にはあなたたちも強くなって、一緒にこの世界変えてみせようね』
「「はい!」」
佐藤さんに対して異常なまでの忠義があるのだろう。
探索者たちは緩い雰囲気の佐藤さんに対して気持ちがいいくらい大きな返事をした。
それにしても100階層で帰還か。
となるとやっぱりそこにもう1つの道があるってことだよな。
うーん、まだまだ気になったことはあったが……それを今考えても仕方ないか。
『それじゃあね。ちょっとこっちで面白いのも手に入れ――』
消えていく佐藤さんの声。
俺たちと佐藤さんとの間が離れていっているからではなく、恐らくあの映像が途絶えたのだろう。
面白いもの……。また気になる言葉を残しやがって……。
「2人とも、ボサッとしてると先に行っちゃうわよ」
「す、すまん」
「ごめんなさい……」
佐藤さんの声に聞き耳を立てる俺たちに、朱音から注意が飛ぶ。
それを受けた俺たちは佐藤さんの言葉を頭に留めつつ黙々と階段を下り、そして……。
「――やっと着いたわね。50階層」
「広い、な。それに雰囲気が違くないか?」
「ここはダンジョンでも節目の階層。なんたって俺が統括モンスターとして配属されているんだ。特別で当然に思わないか?っとそんなことよりまずは道を――」
「それもだけどその前にワープゲートを調べてもいいかしら?」
着いて早々に朱音は50階層の奥へと進み始めた。