103話
「なかなかグロテスクね。ってヒビが……。今のうちに仕掛けるわ!『空間爆発』……」
「き、気を付けろ! こいつは魔力を感知して攻撃をする、から……」
卵を吐き出したナーガは吐き出すにあたって、この卵、というかモンスターに魔力でも吸いとられたのか、苦しそうにその場に膝を着いた。
朱音はそれを見て、爆発の威力を下げて攻撃。
ナーガにそれが被弾することはなかったのは良かったが、爆発によって卵は高く飛び上がり空中で孵化。
気色の悪い触手と、見覚えのあるモンスターの顔が俺たちの頭上に姿を見せる。
「テンタクルゴブリン。50階層のボスね。伸縮自在な手足を使って攻撃。柔らかい身体で隙間に潜り込んで遠距離からチマチマ攻撃してくるいやらしいモンスター。身体に入り込まれると心を読み取られ、それを用いた念話で人を騙そうとしてくることもある。私の知っている個体は手足の数がここまで多くなかったし、先端部分がこんなに枝分かれしてなかった気がするけど……これもダンジョンの異常が影響しているのかしらね」
「お前ら、そんな悠長にしてるとやつの手足に絡められるぞ!奴はその触手一つ一つに異なった属性があって……状態異常を付与でき――」
「攻撃に属性エンチャント。でもそれは耐性バフとは別。しかも、ノスタルジアの木の装備無し、か。じゃあただの雑魚だな」
「いや、お前が強いのはさっきの戦いでなんとなく分かっているが、流石にこいつを雑魚扱いは無理――」
「魔力弓、魔力消費20」
属性弓も各属性のスキルも、それどころか転移弓も使わないノーマルで消費魔力さえ押さえた所謂相手を舐めた攻撃。
だが、ただ単純に手数が増えて攻撃力が上がっただけの敵ならこれで十分。
魔力の回収はできるが、何かあったときのためにセーブして戦う。
なんか、これって強い陸上選手が予選である程度余力を残すみたいな感じで……自分の成長を強く感じるな。
「一也さん。念のために私の力を……。ほら、トロルのときのこともありますから」
「ああ、助かる」
「は、早く攻撃しないと触手が襲ってくるから! このままだと最初に攻撃した私があの触手にいろんなところを……」
「わ、分かったから! 朱音もクロも腕を離して俺の背中に回ってくれ!」
必要以上に身体を密着させてくる2人を背後に移動させて、俺はターゲット設定の後、魔力矢を5本放った。
魔力矢は触手全てを落とすように分裂 、それが命中すると衝撃波が重なり、テンタクルゴブリンは派手に爆散。
粉々になった肉片が地上目指して舞い降りる。
「お、おおおおおおおおっ! お前こんなに強いのか! 予想以上だ!っとそれより食料食料と」
俺の攻撃にテンションを上げるナーガ。
もう何の捻りもない、スピードや回避力も並みのモンスターなら恐るるに足らな――
『さ、と、様……』
「え?」
「どうしたの飯村君?」
「一也さん?」
「いや、なんでもない」
一瞬聞こえたナーガに似た声。
だが、当のナーガはテンタクルゴブリンの肉片に夢中。
今のがテンタクルゴブリンの念話?
だとしても読み取ったナーガの心に、佐藤様なんて言葉があるとは思えないのだが……。
「――うっまい! やっぱりこいつの肉は旨い! これなら……じゃあ付与するぞ! 強化した気配殺しを!」