102話
「了解した。じゃあ早速五〇階層まで移動するが……この先、四六階層からはあいつら、お前たちの敵、俺にとっての食事がまだいる。それをいちいち相手にしていると、最悪向こうのダンジョンへの道を塞がれる可能性もある。そうなれば、俺たちは向こうが道を開く、或いは他の階層に同じような道があるか調べないといけなくなる。俺が移動できるようになったのはあくまで、統括している階層だけだから、できればそんな事態は避けたい」
「つまり戦闘を避けて欲しいと。確かに人間相手だと攻撃方法も限られるから、避けていった方が早く移動はできそ――」
「避けるも何も気付かれなければいい。俺は触れて食料と認められれば、最悪食料を生み出す、生産者として認識できたものにもバフを付与できる。それは物、人、概念を問わない。だからこそモンスターを産み出せるダンジョン、各階層に耐性バフを付与できる力を付与できた。俺がここに着いたことにお前らが気付かなかったのも、その影響……のはず」
「じゃ、じゃあじゃあ五〇階層全部を同じようにしてしまえばサクサク先に進めるってこと? 敵だったら大変だけど仲間だって思えば頼もしいね。血を吸うとかは怖いけど、協力関係になって良かったね一也さん」
佐藤さんの元へ最速で移動できると思いテンションが上がったのか、クロは嬉しそうに俺の腕をぎゅっと掴んで同意を求めてきた。
そんな俺たちを朱音がじっと見つめてくるが……。
今はそれに言及するのは止めよう。
「それが、そんなに簡単なことじゃなくてな。俺のスキル『味付け』は素材の良さ、ないしは素材への評価が高くないと効果が低くて……。正直、今の状態だと感づかれる可能性もあるんだ」
「だから微妙に自信なさげだったのね。でも評価とか言われても、あなた自身の問題なんだから私たちにはどうしようもないわよ。その、えっと……そ、そう思うわよね、飯村君も」
呆れた顔を見せたかと思えば、今度はクロの真似をして俺の反対の腕にしがみつく朱音。
胸の感触がクロよりも強いせいか、それとも普段とのギャップがクロよりもあるからか、異様な恥ずかしさがある。
とはいえ振り払うのは空気が悪くなりそうで、これからまだまだ一緒に戦うことも考えると……ここは静止が最適解だな。
「こんな場所で……。見た目以上になかなかどうして肝の据わった女たちだな。……。何故だろうか、少し身震いが」
「そ、それよりもその問題を解決するための方法があるんだ? だからわざわざこんな話をした。違うか?」
「ご明察。俺のこのダンジョンに対する食の評価を上げるにはここで生まれた、より旨いモンスターを食う必要がある。そして、その旨いモンスターってのに目星は付いている」
「それは……ここにいるのか?」
「いる。そいつは臆病だから俺がホブゴブリンに耐性バフを付与できると知って隠れた。俺もそいつと直接戦って勝てる気はしなかったから放置していた。自衛のために武器も作った、耐性バフの数も増やした。だけど、たまに一瞬感じたあの味がよぎって。あれはきっとかなり旨い。たまに葛藤があったが……いい機会だからお前たちで倒してくれないか?」
「構わないが、一体どこに――」
「感謝する! う、あ……う゛ぉえあっがっ!」
声のトーンを1つ高くすると、ナーガは再び大口を開きその奥から1つの卵を産み落としたのだった。