10話 レベルアップインフレ
「楽しみ、か……。なんだか探索者になりたての頃の私みたい」
「江崎さん、俺一応10年選手なんですけど……」
「じゃあここからリスタートってわけね。あ、依頼に関しては正式に受注したって証明が欲しいから後で送る電子版の依頼書にサインをお願い。本当はこれって駄目なんだけど個人宛にメール送るから探索者証明書を撮影させて貰える?」
「分かりました」
俺は探索者証明書を1度江崎さんに手渡した。
依頼をされるのは主にゴールドランク以上の探索者になるらしいからその手続き諸々初めてなわけだが、電子版なんかあるんだな。
勝手に依頼っていうのは酒場みたいな所で掲示板に貼り出された依頼書を持ってくっていうファンタジーなイメージを持ってたから紙媒体しかないと思っていた。
「はい。ありがとう。さっきはああ言ったけど、今のダンジョンはかなり危険な状態。ヤバいと思ったら直ぐに引き返すように。いいわね?」
「はい。分かりました」
姉御肌を見せる江崎さんから探索者証明書を受け取り返事を返すと、俺は早速ダンジョンの入り口である階段まで脚を運ぶ。
モンスターがここまで来てるという事はそれだけモンスターの発生数が著しく増えているという事、急いでダンジョンに向かったほうがいいのは明確だ。
「飯村君……」
「ここにモンスターが出てくるって事は多分浅い階層に問題があるはず。昨日は『ボーパルバニー』の相手も出来たわけだからそんなに心配しないで大丈夫だ。じゃあ先に行ってる」
不安気な表情で声を掛けてきた朱音にそう返すと俺は階段を下るのだった。
◇
ダンジョン1階層。
いつもは普通のスライムやコボルトなんかの弱めのモンスターが蔓延っている層。
最初に開けた場所があってその奥には分かれ道。
迷宮といった言葉の似合う洞窟タイプの階層ではあるものの、どの道を辿っても結局下の階層に続く階段がある広間に出られる優しい階層。
そう、優しい階層のはずなんだが……
「詰まってるな」
階段を下りその開けた場所に脚を踏み入れようとするが、その入り口部分から階段の2段目まで既に金色スライムと通常のスライムが顔を見せていた。
ギチギチに詰まって押し出されているって感じだ。
「とにかくこのままじゃ進めないから……1発撃ち込ませてもらうな」
階段を下りている際にステータスポイントは割り振り、現在の会心威力は5300%。
スライムには過剰な威力な気がすると思いながら、俺はスライム達がこっちに気づく前に弓を引いた。
明確に狙いを定めていたわけではなかったからか、矢は先頭にいたスライムを避けてギチギチで身動きのとれないスライムに向かって飛んでいった。
そして矢は埋もれるようにしてその中に突っ込み、そして……
――パァン!!
中にいた金色スライムが思い切り弾けたのだろう、金色の礫が周りのスライム達の身体を勢いよく貫通し、スライム達はガンガン息絶えていく。
金色スライムであっても同じ硬度のその礫から身を守る事は難しいらしい。
気付けばたった1射で十分フロアに踏み込める程度のスペースが……。
となればレベルは――
『レベルが44から75に上がりました。レベルは次第に上がりにくくなりますが、ステータスの伸び幅が大きく上昇します。ステータスポイントが37ポイント溜まりました』
「レベルアップインフレ始まったな――」
『スキル:変換吸収の矢を取得しました。この矢で死んだモンスターの肉片や血を魔力に変換し吸収します。威力は通常よりも低くなります』
しかも飛散した血肉による被害を考えたスキルまで取得してしまった……。
こりゃあ今までスキル1個だった分、レベルアップインフレと同時にスキル取得ラッシュも起き始めるかもな。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。