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開幕 シンシアの五年間の旅

第四部です。

いつもよりかなり短くなります。シンシアはもちろん、ユーカリやアネモネの成長も見届けてあげてください。

 シンシアは走っていた。

 早く、早く。

 早く王都に行かねば、兄様が――。


 夕刻、ユーカリは傷だらけで柱に縛られていた。公開処刑されるためだ。

 アマンダが嫌な笑みを浮かべながら、王子を見ている。まるで愉快だと言いたげだ。それを、ユーカリは虚ろな目で見ていた。

 フードを深く被った処刑人がユーカリの前に来た。処刑人は斬首用の剣を抜く。

「やれ」

 民衆達が見ている手前、アマンダが合図を出した。剣を振り上げた瞬間、悲鳴を上げる者も、中にはいた。

 処刑人の剣は王子の首――ではなく縛っている鎖を切った。それに慌てたのはアマンダ。

「なっ……!処刑人!何をしている⁉」

「――悪かったね。私は処刑人じゃない」

 フードを外した処刑人の正体は、菫色の髪の少女――シンシアだった。シンシアは本当の処刑人を捕らえ、自身が処刑人としてこの場に立ったのだ。ユーカリを救うために。

 シンシアの登場に、民衆からは一気に歓声が上がる。

「姫殿下様だ!姫殿下様がユーカリ殿下様を助けに来てくださった!」

「あぁ、女神よ!感謝いたします!」

「……っ!逃がすな!」

 アマンダが叫ぶと、周囲にいた騎士達は武器を構えた。が、シンシアの敵ではない。彼女は一瞬で光の矢を放って倒していく。

「ユーカリ様、逃げますよ!」

 そして、ユーカリの腕を掴み走り出す。逃走中、ユーカリの右目が斬られたがそれどころではない。馬に乗り、王城を後にする。

 そのまま何時間走らせ続けただろうか。追手が来ないことを確認したシンシアは近くの川で止まった。

「兄様、お怪我を治します」

 シンシアは白魔法で兄の怪我を治していく。しかし、やはり右目だけは治ることがなかった。痛々しいと思いながら、治療を終える。

 ユーカリは虚ろな瞳をしていた。あぁ、復讐に生きようとしているのだと気付く。

「兄様、一度私の領地に行きましょう。私が馬を走らせますから、寝ていて構いません」

 元々一日二日ほどならば寝ずに行動出来るシンシアはそう言って、無理やりユーカリを馬に乗せた。そしてその後ろに乗り、寝ても大丈夫であるようにする。

 そのまま、シンシアは馬を動かし始めた。ユーカリはウトウトし始め、やがて眠りについた。こういう時、自分が怪力でよかったと思う。

 次の日の夜、二人はユースティティア家の城に着いた。そこにはガザニアも留まっている。

「シンシア=ブルーローズ=ユースティティア、ただいま戻りました」

 ヨハンに挨拶をし、ユーカリの無事を報告する。そこにシンシアを慕う騎士団の一人が来た。

「シンシア様!ご無事で何よりです!」

「あぁ、君か。丁度よかった」

 シンシアは彼を見て、僅かに笑顔を浮かべる。

「君に頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、ですか?ご命令とあらば、何なりと!」

 よろしい、とシンシアは満足げにした後、告げた。

「私はまた、旅に出る。恐らく、戻ってこられないだろう。だから、私の代わりに騎士団の金銭管理をしてほしい」

「え……?」

「今回の戦争の費用に関しては私の貯金から、全てを出している。どのように使えばいいかも紙に書いているから、それ以外は自由に使ってくれ」

 騎士は理解が追い付かなかった。主君が旅に出る。騎士団の金銭管理……それは意外と大役だ。しかも、それは領地予算ではなくこの主君の財布から出しているという。

「い、いえ!私などよりふさわしい者が!」

 恐れ多いと彼は断ろうとしたが、

「君だから、任せるんだ。……士官学校にいた時から、君はいつも異分子である私を慕ってくれたね。騎士道に逆らうことも決してしなかった。そんな人になら、私も任せられる」

 任されてくれないか?と主君からの絶大な信頼を受けて、彼は少し考えた後、「分かりました、やってみます」と頷いた。

「よかった。もし分からないことがあればおじい様……ヨハン殿に聞くといい。戦闘になった時の知識も、私の部屋に置いてあるから自由に入って見てくれ。見られて困るものはないからね」

 シンシアは事前に、戦術や必要最低限の指示を書いた紙を自分の部屋に置いていた。そこまで入念に準備して、シンシアはヨハンからディルエロヒームを授かり、義賊の時に着ていた服を着て旅に出た。ガザニアに止められるが、それすらも振り払って。

 彼女はまず、ラメント村の跡地に来た。

「……ここに来たのも久しぶりだね」

 今や何もない、そんな場所。確かにここに、村があって自分は住んでいたのだ。

 死者達の憎しみ、恨み、嘆き、苦しみ……それらがひしひしとシンシアに伝わってきた。

「シンシア、早くしないと」

「そうだね。思い出に浸っている時間はない」

 ユスティシーに言われ、シンシアは力を溜める。そして、それを空に放った。完全にとは言わないが、それらの負の感情がなくなったと思う。

 もう少し、ここにいたいが何せ五年で、しかも一人で済ませないといけないのだ。シンシアは名残惜しそうにしながらそこを去る。

 そうしてシンシアはトリストの被害にあった場所に出向き、次々と怨念を弱体化させていった。途中、帝国軍と戦うこともあったがシンシアの敵ではない。

 戦争が始まって五年、全ての準備を整えたシンシアは修道院へ向かった。

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